共稼ぎ夫婦に立ちはだかる「小1の壁」の悩み深さ

 2000年過ぎたあたりから増え続ける共働き世帯。2014年度に発表された厚生労働省の「国民生活基礎調査の概況」によると、2013年度の専業主婦の世帯は745万世帯と減る一方なのに対し、共働き世帯は1065万世帯と増え続けている。 そんな共働き世帯のなかでも、特に子育て中の親にとって深刻な問題となっているのが、保育園の待機児童問題だ。少子化が進んでいるというのに保育所のニーズは高まる一方。各自治体も保育所や定員を増やしてはいるが追いつかず、2013年度の待機児童数は全国で2万1371人と6年連続で2万人を超えている。
小学1年生

写真はイメージです

 保育園の待機児童問題にばかり注目が集まってしまっているせいか、子育て中ではない人たちの多くが、「子どもが成長して小学生ともなればひと安心」と思いがちだ。  が、しかし、共働き夫婦にとって子育ては保育園を卒園すればひと段落というワケにはいかないのが現実だ。実はその先には「小1の壁」と呼ばれる大きな障壁が待ち構えているということを知る人は、意外に少ない。  いったい、小1の壁とはどういうものなのか、子育て事情に詳しいライターの國尾一樹氏に聞いてみた。 「多くの認可保育園は延長保育を実施しているので、18時以降も預かってくれるところが多いんですね。延長保育は19時までというのが公設公営の保育園では一般的で、なかには、全体から見れば少ないのですが、民営の保育園などでは20時とか21時くらいまで預かってくれるところもあります」  子どもが保育園に通っている間は、延長保育の申請をして認められれば19時までは預かってもらえる。共働き家庭の子どもは小学生になると当然、学校が終わった後に学童保育クラブ(以下、学童)に通うことになるが、ほとんどの学童に延長保育がない。  そのため、保育園に通わせていた時よりも1時間早く仕事を切り上げて、何としても18時までにお迎えに行く、あるいは子どもが帰宅するまでにどちらかの親が帰宅するようにしなければならないのだ。 「学童というのは、これまで国の統一された基準というものがなかったので、各自治体ごとに制度が違います。なかには19時まで延長保育をする学童も自治体によってはあるものの、それは例外です。しかも、1年生時は親のお迎えが必須の学童が多い。集団下校で1人帰りをさせる学童もありますが、実際問題として、小1の子どもが1人で親が帰ってくるまで留守番するというのは無理な話です。おじいちゃんおばあちゃんが同居しているとか近所に住んでいて預かってくれるといったサポートがない場合、夫婦で何とかやり繰りしながら、何が何でも18時までにお迎えに行かないといけなくなるんですね。それが、小1の壁と呼ばれる所以です」  さらに、國尾氏はお迎え時間が早くなるという問題だけが小1の壁ではないと言う。 「保育園に預けている頃は、家庭では親が面倒を見てあげればいいわけです。ところが、小学校に上がったら、様々なシーンで子どもが自立するためのサポートをするよう、子どもへの接し方もシフトしていかないといけない。ところが、子どもにしてみれば、保育園から小学校へと毎日通う場所も変わるし、さらに放課後は学童にも行かなければいけない。生活環境が激変するワケですから、帰宅したら疲れ切ってしまいますよね」  子どもも親も、帰宅してからも忙しい。 「晩ご飯を食べたり、風呂に入ったり、学童でやり残した宿題があれば、それもやらなければならない。多くの小1の壁を経験した親に取材しましたが、夏休みが終わる頃にやっと新生活に慣れてくる、と口を揃えて言います。それまでは、保育園時代よりも子どもの様子をよく見てあげないといけないといった苦労があって、それこそが本当の小1の壁なんだとも言われています」  保育園に通っていた頃よりも手がかかるというのは意外な話だが、小1の壁を乗り越えた先には、さらに「小4の壁」なるものもあるようだ。 「この4月から制度が変わって、必要であれば小6まで学童に通うことができるようにする方針を国は示していますが、急に変わるわけではなく、これまで通り、学童に通うのは基本的に小3までなんです。学童を卒所したら、授業が終わったら家に帰って1人で留守番ができるようにならないといけない。しかも、中学受験を考えているなら、帰宅後に塾に行く準備をしたり、習い事に行く準備をして1人で移動もする。そういう意味で、学童が終わる小4というのが、もうひとつの大きな壁になるんです」  子育て中のワーママに取材した時にこんな話を聞いたと國尾氏は言う。 「男性の上司に『子どもが小学生になったら、時短とかやめてガンガン働けるようになるよな!』って言われたそうです。その上司はもちろん、共働き家庭の子育ての大変さを知らないから悪気はなかったとは思うんです。そのワーママは職場に迷惑をかけ続けている負い目もあって、『小学校に上がってからも大変なんです!』と心の中で叫ぶのが精一杯だったそうです」  最近になって、「ダイバーシティ」だとか「イクボス」といった言葉も使われるようになり、子育て中の共働き夫婦への理解を示す人も徐々に増えてきて子育て環境も改善されているように思われるが、國尾氏はこう言う。 「小1の壁を経験された親に何人も取材をしてきましたが、それぞれの家庭にそれぞれの問題があって、みなさん、ワークライフバランスを含め、何を優先すべきかと悩みながら子育てをしています。とはいえ、不平不満を言って嘆いてばかりいるのではなく、問題解決のために自らの働き方を見直しつつ、変えていこうと努力する親も増えてきていると感じています」  今後も増えていく共働き世帯で、近い将来、親になるだろう人たちは、保育園をどうするのかといった問題だけではなく、その先にある小学校入学後のことも少しは考えるようにしていったほうが良さそうだ。 <取材・文/HBO取材班>
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