ロンドン再封鎖12週目。緩和策は「お帰りなさい」であって、「お」が落ちて「帰りなさい」になってはならない。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

第一次緩和の始まり

3か月ぶりの魚屋

3か月ぶりの魚屋。見知った顔が「よっ!」と声をかけてくれるだけで、こんなにも嬉しいものか。もうすぐ地中海から初鰹もやってくる。その頃には封鎖緩和もさらに次の段階に……

 3月29日、予定通りロックダウン第一次緩和がありました。年頭の悲惨な状況を知っていると、なんだか不思議です。気温はまるでお祝いしているみたいに20℃超えで、解禁された屋外スポーツ施設で汗を流す人や屋外プールに飛び込む人も多く観察されました。6人あるいは2世帯までなら自宅の庭やキャンプ場などで集まることも可能になったので、さっそくバーベキューを楽しんだ友人もいました。  しかし緩和とはいえ政府の発表はむしろ「してはいけないことの強調」に力のこもった内容でしたね。人に会うときのマスク着用やソーシャルディスタンスの意識があらためて促され、外出するにせよ、できるだけ地元に滞在すること、在宅勤務を続けて移動は最小限に抑えることなどが強調されいます。  現在営業許可を得ている店以外はまだシャッターを上げられないままだし、パブやレストランの営業もまだ先です。よんどころない事情がある場合は除き、海外旅行も引き続き禁止。10日間のホテル隔離も継続。相変わらず帰国者がウィルスを持ち込むケースが減っていないのでまだしばらくは膠着でしょう。  わたしはといえばこの日記の初回に書いた地上線の電車で4駅目の場所にある魚屋「Steve Hatt Fishmongers」に出かけました。30日が生憎の定休日だったので31日。大晦日以来ですからまる3ヶ月のご無沙汰。早朝から慌ただしく人の出入りする葬儀屋を眺めて震えていたあのときとはえらい違いです。  これからはいつでも来られるから焦る必要ないのについつい爆買いしてしまいそうになります。このエリアにあるお気に入りの店を巡り、ぬかりなく祝緩和のケーキなども購入。移動距離というよりは興奮ゆえくたくたになって帰宅。でも愉しかったなー。  BBCは3月30日付(Web掲載は31日)のニュースで約半数の英国人が新コロ(変異株含む)抗体をからだに備えたと伝えました。高級紙ガーディアンやインディペンデントも一斉にこの英国家統計局Office for National Statistics(ONS)の調査結果を報じています。おそらく緩和に対する保険的な意味もあったのではないでしょうか。  現在のところワクチンの接種は英国の全成人の半数以上が済ませています。ここに感染後に無事生還した人々や感染しただけで無症状のまま抗体を手に入れてしまったラッキーな人々を含めての「国民の半分」です。年齢層でみると高齢者の抗体保持率がとりわけ高い(90%!)。ワクチンの有用性明確に数字になって表れています。  ただ、この高齢者ゾーンでは抗体の確認量自体は微妙に減っています。2回目が未接種の人が原因ではないかとONSは現象を考察。また、このことは免疫力そのものが低いという話ではないと強調しました。どうやらセカンド接種はやはりデフォルトのようです。セカンド重要。ジョジョ立ちして強く訴えたい。

「コロナは風邪」の人がコロナに罹ったら

クリスマスデコが残されたまま

街を歩けばお店にはクリスマスデコが残されたまま。こちらではツリーなどを片付ける日は十二夜(1月6日)が決まりなので。6月頭のSpring bank くらいには次の飾りを見たいもの

 それにしてもこれだけ明快なコロナ禍脱出法が目の前で展開しているというのに、なんなら英国では女王陛下を筆頭に人類のために先駆けての新型ワクチン接種という人体実験に自ら参加しているというのに手を拱く国や人がこんなに多数なのはなぜ?(追記:科学的には立証されていませんがワクチンが血栓発生の原因になる可能性も否定できないということで。4月8日英国でも暫定的に30歳以下には接種しないことになりました。いまのところ血栓による死者は25万人に1人の割合。一方コロナによる死者は世界でいまだに一日9000人います)  ハーバー・ビジネス・オンラインに掲載されていたポーランド在住・林泰人さんの『「コロナは風邪」論者が自らも感染。「地獄」と語る壮絶な闘病生活の果てに感じたこと』という文章を面白く――面白くというと語弊がありますが――拝見しました。  欧州某国で働く日本人Kさんに取材したものです。合法的な在住者であれば国籍問わず無料で治療が受けられる英国NHSのようなシステムのない国でコロナ感染したら大変だと思っていましたが、一読、真剣と書いて「マジ」と読むくらい大変だと理解しました。  このエッセイの中でもっとも印象に残ったのはこの一節です。Kさん曰く〝かつての自分と同じく、「コロナは風邪」と信じている人たちには、「言っても多分、無理(伝わらない)」〟。  そうなんですよ。わたしもこの一年あらゆる場で「ただの風邪じゃない!」と訴え続けてきましたが、その種の人たちは、アメリカで55万人死のうが、英国で12万5000人死のうがあいかわらずただの風邪教の狂信者のままなのです。最後には「人は誰でも死ぬ」とか「諦めるしかない」とか言い出す始末。  Kさんはコロナに強いと信じられている日本人です。コロナに強いと信じられている30代の働き盛りで、コロナに強いと信じられているスポーツ好きの健康体でした。罹らない条件、重症化しない条件、後遺症に苦しまない条件がみんな揃っていた。けれど一度ならず死を覚悟せねばならなかった。  日本人はDNAレベルでコロナの耐性を有しているのでは? と言われています。信じられる専門家や研究者も口を揃えていますからXファクターの存在は事実みたい。しかし新コロが跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)する外国に暮らしていれば日本人でも若くても基礎疾患がなくても、さらにはそれなりに気をつけていても「罹るときには罹る」程度の耐性でしかない。  日本に住む外国人労働者の問題をリサーチしてみても景気低迷による解雇や就職難についてがメインで、貧しさを温床に増殖するウィルスであるにもかかわらず、とりわけ彼らが病気になりやすいという資料は発見できませんでした。  日本の生活環境にいる限り、個人個人の意識の高さもあり(サイレント・マジョリティがいい仕事をしていると思います)日本は安全な国です。が、とても脆いガラスの安全。だから時間延ばしみたいなことを続けている限り、いつかいま世界で起こっているような悲劇に日本が襲われる可能性はなくなりません。  わたしもただの風邪教信者の説伏は匙を投げました。Kさん同様「覚悟だけはしておけ」と言うにとどめます。政府は少しでも早くワクチン絨毯接種を!
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