ロンドン再封鎖6週目。ワクチン接種もマスクと同じ、他者のために<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

ストップウォッチ待機

心理的なものだろうけどストップウォッチ待機(本文参照)の時間は長かった。かつて経験したことのない気分を味わいました。ある意味、ロックダウンというものの縮図だったかもしれません

ワクチン接種はやはり痛くて倦怠感があった

 間違い。間違い。間違いだらけ。自分が情けない気持ちでいっぱいです。  人様の目に触れる仕事なのだから、とりわけいまは命に係わることなのですから充分に気をつけて書いているつもりではいます。しっかり裏も取っていました。情報源も信用に足る英国国営放送BBCや高級紙のThe Guardian、しっかりと掲載前の査読がある学術雑誌を中心にデマや陰謀論が混じりこまないように、偏見で目が曇らないように留意してきました。それでも間違い早とちり、誤読が混じってきてしまう。  コロナというやつは、まるでバグでもあるように身体だけではなくネットワークに侵入して情報を混乱させる性質があるのではないか?  たとえば前回わたしは「コロナワクチンの注射はのちに痛くなるという噂は嘘」と断定しました。が、自分が打ってもらったら、しっかり痛くなってやんの(笑)。って(笑)ごとじゃぜんぜんないですよね。もっとも触らなければ分らない程度ではあるんですが。ツレは一週間くらいじんじんしてたそう。  そして接種翌日はもうひどい倦怠感に苛まれました。コロナ感染初期に見られる典型的な症状なのでかなり緊張しましたが熱は出なかったので一晩様子見したらケロリンパでした。人騒がせな。マジな副作用が例外的なのは事実ですが、どうやら個人差はかなりあるもののワクチン接種によって不具合はでる模様。むろん平気な人もたくさんいるでしょうが。  注射したあと即帰宅したツレの話を聞いて、接種後の待機はなくなったと書いたのも間違い。わたしはストップウォッチを渡されて15分間ウェイティングさせられました。みんなお喋りしてるわけじゃないし、マスクしてるし、換気のためにすべてのドアや窓は開け放たれている(寒かった)けれど、こんな集団の中に混ざるのは一年ぶり以上。ちょっと怖かった。  こういうレベルでの間違いは――もちろん、わたしのおっちょこちょいは否めませんが――どんなにしっかり調べて書いているジャーナリストでも犯してしまうのがコロナ禍。拙著『英国ロックダウン100日日記』(本の雑誌社)で、コロナの温床として口を極めて罵ったぎゅうぎゅう詰めの海岸風景も、調査の結果、ただのひとつもクラスターが発生していないことがわかりました。尤もやはりあの一群に積極的に加わろうという気持ちにはなれませんが。

1月の京都新聞を読み解いてみる

接種待ちの行列

順番がビリでも滞りなく列が進めば問題ではない。ちょうど接種待ちの行列がそうだった。悲壮感はなく、スタッフも元気。初回の日記に書いた肉屋、魚屋の早朝行列を思い出した。

 京都新聞の1月16日版に掲載された「独居80代、6日間入院できず自宅で死亡」の記事。病床使用率30%台でも受け入れられず、という見出しに憤りと哀しみを禁じえませんでした。けれど少々引っかかるものがあっていろいろ調べてみると重大な「間違い」が見え隠れしていることを発見したのです。  端的に申し上げれば、保険制度(NHS)のおかげで医療が無料の英国とは異なり、あくまでビジネスである日本では病床使用率30%じゃ経営が成り立たない。そして記事の中ではどこからこの30%という数字が出てきたのか明かされない……ってことです。  わたしはこの記事が嘘だとは言いません。「ただコロナのせいで他の病気の患者が受け入れられず病床使用率は30%で病院の経営は大ダメージですが、コロナ患者受け入れ可能なベッドは100%を越えています。他のベッドも開放したいけれど日本医師会の決めた基準がとても厳しいので」って話も聞きました。ちょっと印象が変わってきますね?  亡くなったお年寄りの話は疑うべくもない悲劇。しかし悲劇を強調しようとするあまり誤謬(ごびょう)が混入しているのではないでしょうか。うちもそうだから痛いほど理解できますが家族に独居老人を抱えた人たちは気が気ではありません。間違いであっても、こういう記事には飛びついてしまう。飛びついて大騒ぎしてしまう。だからこそ冷静でいたいもの。  でも、うちみたいな物理的にも精神的にも距離のある関係ですら、けっこう今回は厳しいものがありますね。わたしがワクチン接種の日程を受け取った2月12日、日本にはようやくワクチンの第一便が到着してます。これは先進国(にカテゴライズされる国)でビリ。ビリけつ。べべたこ(←京都語)。でもってわたしがワクチンの影響で使い物にならず寝そべって過ごしていた17日、ようやく接種第一陣スタート。  もうね、わたしは呆れるというより腹立つというより84歳の母に申し訳なくってね。電話して「注射してきたよー。もう大丈夫。そっちも早く打ってもらえるといいね」といいながら鳩尾が痛くなりました。生理的に納得できないんですよ。順番が違うやろ! こっちよりばあさん先にしたってや! みたいな。
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