菅首相が加速する「DX=ドラ息子トランスフォーメーション」が日本を滅ぼす

菅義偉首相

時事通信社

菅首相の「長男」問題

 菅義偉首相の長男と彼の勤める企業が、総務省幹部を繰り返し接待していたことが明らかになりました。最初に報じたのは2月4日発売の「週刊文春」で、長期にわたる取材の成果でした。衛星放送関連会社の「東北新社」の社長と統括部長を務める菅首相の長男らが、衛星放送の許認可権を有する総務省の放送関係の幹部を繰り返し接待し、衛星放送事業について話し合っていたことは、その後の国会で、総務省が認めるに至りました。接待を受けていたのは、谷脇康彦総務審議官、吉田眞人総務審議官、情報流通行政局の秋本芳徳局長、同局の湯本博信官房審議官です。  接待をしていた企業が、接待を通じて何らかの利権を手にしていたとの確証はありません。しかしながら、同社が菅首相の総務副大臣の在任中に放送業務の委託を総務省から受け、接待と時を同じくして放送法で定める認定を更新していたことが「週刊文春」によって報じられています。一方、接待を受けていた側の情報流通行政局は、放送法を所管する許認可権限者です。  接待を受けた総務省幹部の一部が長男と知り合ったのは、菅首相の総務大臣時代でした。菅首相は、1996年の衆議院選挙で初当選し、2005年10月の小泉純一郎内閣で総務副大臣に任命されました。総務副大臣の時の上司・総務大臣は、竹中平蔵氏でした。2006年9月に誕生した安倍晋三内閣では、当選4回ながら総務大臣として入閣しました。一般的に、自由民主党の「入閣適齢期」は当選5回以上とされるため、抜擢といえます。  菅首相の長男は、菅首相の総務大臣の時、総務大臣秘書官に任命されていました。大臣秘書官とは特別職の国家公務員で、国家行政組織法第19条で「各省大臣の命を受け、機密に関する事務を掌り、又は臨時命を受け各部局の事務を助ける」職と規定されています。いわば、大臣の特命を受けて、各部局の政策決定にも関与することができるポストです。総務省組織令では定員1名とされています。  実際の大臣秘書官としての仕事は、別に任命された官僚によって担われますので、誰が任命されても行政の業務に支障をきたしません。一般的には、課室長になる一歩手前の官僚を「大臣秘書官事務取扱」として任命し、行政に関する大臣秘書官の仕事はその人が担います。その官僚も大臣秘書官と呼ばれ、誰も事務取扱と呼びません。現実には、複数の大臣秘書官が存在するわけです。官僚の大臣秘書官については、経済学者の小峰隆夫氏のコラム「大臣秘書官という仕事」が参考になります。  そのため、大臣が任命する大臣秘書官は、官僚の秘書官と区別するため、政務秘書官としばしば呼ばれます。たいていの場合、政務秘書官には議員事務所の秘書を任命します。大臣になっても国会議員としての職務や党務、選挙対策などがありますので、それらを円滑に進める連絡役としての役割です。また、議員の跡継ぎとして経験を積ませるため、親族を任命する場合もあります。安倍晋三首相は、国会議員になる前、父親である安倍晋太郎外務大臣の政務秘書官をしていました。稀に専門家を任命し、補佐官のように政策形成に関与させる大臣もいますが、ほとんどすべての政務秘書官は行政に関与せず、議員事務所との連絡調整をしています。

父親のコネで大臣秘書官、認可先企業に就職

 長男は、大学を出て定職のないとき、総務大臣秘書官に任命されましたが、その目的は不明です。菅首相は子息を跡継ぎにしないと表明していますので、議員になるための経験を積ませるためではありません。「週刊文春」によると、議員事務所の毎週の定例ミーティングに参加していなかったそうですので、議員事務所との連絡調整をしていたわけでもありません。もちろん、専門家ではありませんので、総務省の政策形成に関与する能力もありません。  父親の総務大臣の退任後、長男は父親の関係で、問題となった企業に入社しました。いわば、総務大臣が、定職のない子息に総務大臣秘書官という特別国家公務員の職を与え、大臣の退任で定職を失った子息に、総務省の許認可を受けている企業に口利きして、再び定職を与えたことになります。  つまり、この接待問題とは、菅首相の「ドラ息子」と彼を引き受けた企業が、首相の元部下を接待して、許認可に関する話をしていたのです。元総務大臣・首相の息子の声がけでなければ、国家公務員倫理法に抵触する疑いの強い接待を、わざわざコロナ禍の最中に、総務省幹部が受けることはなかったでしょう。明らかになれば、懲戒処分は免れず、人生を棒に振る恐れもあるからです。
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厳しい官僚統制が加速した「身内優遇」
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