服役中の囚人がかつて強盗を働いた銀行の頭取に手紙を送ったところまさかの返信が

償い

shutterstock

刑務所から発送された一通の手紙

「アナ・パトゥリシア様、この手紙をどのように焦点を当てればよいのか分かりません。またこの手紙があなたの手元に届くとも思いません。実際、あなたの秘書課の秘書でさえそれを読むようになるとも思いません。しかし私にはこの手紙を書く必要があるのです。その必要さから(あなたに手紙を送るという)大胆さも生じるのです。ということから、私は今日あなたにこれらのことを伝えるべく手紙を書くのです・・・・私は麻薬との問題から手に拳銃をもって銀行支店を襲うようになったのです。その支店の多くがサンタンデール銀行だったのです」  こんな文面で始まった手紙の宛名であるアナ・パトゥリシアは、名門銀行家一族に生まれ、昨年までスペインで資産高で最大だった銀行「バンコ・サンタンダール」の頭取であり、2020年度のフォーブスによるスペインで影響力を持つ上位25人の女性の中で、レティシア女王に次ぐ2位にランキングされている超セレブである。そして、この手紙を書いた人物は2002年からブルゴスの刑務所に服役中のフーリオとう名前の53歳の人物である。  フーリオが、この手紙を書いたのは、過去に彼が犯した強盗罪で、この銀行支店を襲い、脅迫した行員に謝罪をしたいという希望からであった。フーリオは服役して既に20年が経過するが、刑務所内で社会復帰支援活動にも積極的に参加し、その責任者ビルヒニア・ドミンゴからも信頼を得るようになっていた。そこで、彼が襲った銀行支店の行員に謝罪したいという彼の願いに応えるべくドミンゴは文章の作成などに協力したという。

当然ながら返信はなし。するとフーリオは……

 ところが発送した手紙は、誰からも返信がなかった。それもそうであろう、刑務所に服役中の人物から謝罪したいという手紙を受け取っても、それに対してどのような反応をしてよいか分からず結局はその手紙は被害を受けた行員の引き出しの中に埋もってしまうか、ごみ箱に捨てられるのがおちであろう。  しかし、フーリオは誰からも返信がなかったということに失望するのではなく、バンコ・サンタンダールの頭取に敢えて手紙を送ることに決めたのである。それが昨年11月のことであった。  冒頭の手紙の内容でも明らかなように、彼自身もまさか頭取の手元にまで彼の手紙が届くとは想像しなかった。しかし、謝罪したい相手の誰からも回答を貰えなかったということで、いちかばちか、彼らの親分である頭取に送って回答がなければ諦めるつもりでいたようだ。  彼は、なぜバンコ・サンタンデールに集中して襲ったかという理由から始まって強盗するに至るまでの境遇を手紙の中に認めた。バンコ・サンタンデールの支店を主に襲うことにしたのはそれがスペインで最大の銀行だということでそこから僅かのお金を強奪してもそれは大きな銀行だから全く影響はないはずだという意識をもっていたからだという。
次のページ 
囚人の元に届いた返信
1
2
3
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会