「対戦ゲーム」のように国会を報じることで見えなくされていること

「反発」ではなく「批判」「反論」「異議申し立て」「指摘」「主張」「抵抗」

 しかし実際の国会で野党議員がおこなっているのは、「批判」「反論」「異議申し立て」「指摘」「主張」「抵抗」などだ。「そのような説明では説明責任を果たしていない」「そのような違法なことは許されない」「そのような対応は不適切だ」「このような状態で採決を急ぐべきではない」――そのように、理由があって異議申し立てをおこない、説明責任を果たさないまま性急にことを進めようとする政府与党の動きに、対抗しているのだ。  なのにそれを「反発」という言葉で表現してしまうと、まるで理もなく感情的に騒いでいるだけのように見える。それは野党に対して失礼だし、「野党は反対ばかり」「パフォーマンス」「野党はだらしない」といった表層的な見方を強化することに加担してしまう。  国会報道は与野党の動きを報じるのだと言うのなら、野党がなぜ反対しているのか、どのような指摘をおこなっているのか、何を批判しているのか、その内容を示すべきではないか。「野党は反発」と言わずに、「野党は『・・・・・・』と批判した」と書くべきではないのか。なぜ、そうしないのか。 「いや、字数の関係で端的に表現しているだけだ」という反論があるかもしれない。ならば「野党は反発」と書かずに「野党は批判」としてみたらどうか。「反発」と「批判」では、印象が異なる。「批判」であれば、根拠があって反対していると見える。  例えば上記の(4)の記事であれば、「野党は28日、「……」(……)などと反発している」とせず、「野党は28日、「……」(……)などと批判」と書けばよいではないか。(12)の記事であれば、「説明を尽くさない姿勢に対し、野党は反発を強めている。立憲民主党の枝野幸男代表は16日、記者団に「……」と批判した。」と書くかわりに、「説明を尽くさない姿勢に対し、野党は批判を強めている。立憲民主党の枝野幸男代表は16日、記者団に「……」と指摘した。」などとしてもよいではないか。「反発」という言葉を使わずに書くことは可能だ。

権力側の表現では使われにくい「反発」

 さらに考えたいのは、「反発」という言葉は、権力者に対峙する側にのみ使われがちな言葉ではないのか、という点だ。野党ではなく政府与党の側のリアクションを紹介する場合にも果たして使われているだろうか。  例えば下記を見ていただきたい。 “30日の参院本会議で、安倍政権が新型コロナウイルス対策として配布した「アベノマスク」の評価が議論となった。立憲民主党の古賀之士氏が「古今東西、まれに見る残念な政策」とこき下ろしたのに対し、田村憲久厚生労働相は「国民から感謝やお礼の声もいただいている」と反論した。”(【アベノマスク「国民から感謝も」 立憲議員の批判に田村厚労相】 時事通信2020 年11月30日)  ここでは立憲民主党の古賀氏の発言は「こき下ろし」と表現され、他方で、田村厚生労働大臣の発言は「と反論した」と表現されている。古賀氏は感情をあらわにし、田村大臣は冷静に対応したかのような表現ぶりだ。しかし、この田村大臣の発言は、もしそれが野党の発言であれば、「と反発」と表現されたのではないだろうか。  「桜を見る会」をめぐる安倍晋三首相(当時)の国会答弁を紹介した下記の記事も同様だ。 “野党はホテル側と書面でやりとりして提示するよう要求したが、首相は「私がウソをついているというのであれば、(ウソだと)説明するのはそちら側だ」などと拒否し続けた。” (【明細書、主催者に未発行「ない」 ホテル見解、答弁と矛盾 「桜を見る会」】朝日新聞 2020年2月18日)  これなども、「首相は『……』などと猛反発した」と書いてもよさそうなものだが、「などと拒否し続けた」という表現になっている。  野党については「反発」という言葉を使い、政府与党については「反論」などという言葉を使う。そのような使い分けは、無意識のうちにおこなわれているのだろう。  しかしその背後には、「女は感情的で、男は理性的」といった固定的なジェンダーバイアスと同様の、「野党は感情的で、政府与党は冷静」といったバイアスが潜んでいないだろうか。記者個人がそのようなバイアスを抱いていなくても、政治部記事の「スタンダード」として、そのようなバイアスを織り込んだ書きぶりが引き継がれていないだろうか。
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それは本当に「抵抗」ではなく、「反発」なのか
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『日本を壊した安倍政権』

2020年8月、突如幕を下ろした安倍政権。
安倍政権下で日本社会が被った影響とは?

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