世界の研究機関による新型コロナ関連統計からわかる、日本の統計の壊れっぷりと対策の遅れ

対策どころかGoToにご執心だった菅政権

対策どころかGoToにご執心だった菅政権。
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COVID-19エピデミック統計が壊れ始めた本邦

 前回IHME(保健指標評価研究所) による中期・長期予測を用いて本邦の現状と年末までの中期予測についてを中心にご紹介しました。  前回記事中で、11/26、12/3更新見込みのIHMEによる予測の更新が本邦の12月、1月の状況を推測する上でたいへんに重要と記しましたが、11/26は合衆国のサンクスギビングにあたり、更新されませんでした。  結果として、この本邦にとってきわめて重要な局面で表示上は11/12付けの予測 Excelファイル で11/19付けの予測しか手に入りません。  また困ったことに、前回指摘したように11/15以降顕在化している本邦の統計の乱れが酷くなる一方で、本邦では検査体制、集計体制共にウィルスに圧倒されつつあるのではと筆者は危惧しています。実際、本邦の検査陽性率がOur World in DATAで11/20以降について一旦発表されたものの、遡及して撤回され、その後訂正再公開されるなど本邦の現状把握への影響が顕在化しています*。 〈*厚労省のオープンデータ を見ても訂正等の告知がなく厚労省と欧州CDCのどちらの連係ミスかは判然としないものの、本邦のCOVID-19に関する統計は今月中旬以降、乱れが大きくなっている〉  これはたいへんに困ったことですが、本邦が厚生労働省の省益最優先で垂れ流してきたジャパンオリジナル・国策翼賛エセ科学・エセ医療デマゴギーを論拠とした世界に類のない検査抑制政策によって本邦の検査・防疫体制はきわめて脆弱です。  加えて欠陥品と言う他ないきわめて低精度のメイド・イン・ジャパン抗原検査キット*による検査汚染によって諸外国ではチョロく耐えられる程度のウィルスの圧迫によって破綻してしまう脆弱性を本邦の検査・集計体制は抱えてきました。筆者は、第3波では11月末から12月初頭には3月から4月のように検査と統計が破綻するのではないかと危惧してきましたが、統計を見る限り本邦のCOVID-19エピデミックに関して既に検査体制と集計体制がウィルスに圧倒されはじめている可能性があります。 〈*後日改めて論ずる予定であるが、厚労省が大量配布している日本製の抗原検査キットはきわめて低精度であり、ないほうがマシな欠陥品である。合衆国アボット社の抗原検査キットなど、世界には安価で優れた抗原検査キットが本邦より先行して大量に流通しており、PCR検査を補完している。合衆国には1億検査/日を目指して就学児童のいるような家庭に抗原検査キットを配布し、例えば14日間1日2回検査を家庭で行い、陽性反応者をPCR検査で確定するという構想すらある。これはワクチン実用化が遅延した際に学校などの集団に人を戻す為のPlan B「桁違いの大量検査をワクチンの代替とする」として提案されており、筆者はこの案をとても気に入っている。PCR検査は、COVID-19検査のGolden Standardであることは本邦以外の全人類で共有されているが、ラボが必要と言う弱点がある。合衆国ですら本邦の行政検査に相当するPCR検査は、100万検査/日前後が現時点での検査・集計上の上限であるため、検査資源の不足とロジスティクスへの負荷を補う必要がある〉
2020年11月27日公開 日本と韓国の検査陽性率7日移動平均

2020/11/27公開 日本と韓国の検査陽性率7日移動平均
日本の検査陽性率が、まさに”Skyrocket”=急上昇を生じ10%を超えているが、不自然な跳ね上がりにもみえる
Our World in DATA

2020年11月28日公開 日本と韓国の検査陽性率7日移動平均

2020/11/28公開 日本と韓国の検査陽性率7日移動平均
日本の検査数が11/20以降取り下げられ、検査陽性率の公表も11/19までとなった
Our World in DATA

2020年11月29日公開 日本と韓国の検査陽性率7日移動平均

2020/11/29公開 日本と韓国の検査陽性率7日移動平均
日本の検査陽性率は全期間で全面的に再評価のうえ差し替えられたため、大きく変わっている。
現在陽性率は6〜7%であり、検査が不足し感染拡大実態が見えなくなる「検査負け」が目前に迫っている
Our World in DATA

日本と韓国の100万人あたり日毎新規感染者数(ppm)

日本と韓国の100万人あたり日毎新規感染者数(ppm)
日韓共に7日周期の曜日変動が正確に生じているが、日本の場合、慢性的に報告遅れによるデータの欠落と翌日の合算が多く生じている。特に11/15以降2回ないし3回発生した欠落と合算は非常に手痛い
Our World in DATA

インペリアルカレッジロンドン(ICL)報告書による評価を見る

 ここで海外研究機関による本邦COVID-19エピデミックの統計に関する評価を見てみましょう。エピデミックの統計は、検査が有限であることから実測値と現実の値(真の値)との間に乖離が生じます。各国、各研究組織は、実測値による統計から真の値を復原することに腕を競っています。  筆者は、特にICL(インペリアルカレッジ・ロンドン)LANL(ロスアラモス国立研究所)を高く評価しており、日常的に報告を閲覧しています。LANLは独自のモデルですがICLは一般的な感染症数理モデル(SEIR Model)を用いています。今回は、ICL公開の評価と短期・中期予測を見て行きます。
日本における日毎新規感染者数(実測値・えんじ色)と推測される真の日毎新規感染者数(青)の推移

日本における日毎新規感染者数(実測値・えんじ色)と推定される真の日毎新規感染者数(青)の推移
右側は拡大図
ICL

 ICLは、第1波、第2波、第3波について第1波では真の感染者数は実測値の10〜11倍と評価し、第2波で3〜4倍、第3波で2.5〜3倍と推測しています。  11/25前後で日毎新規感染者数は2000人ですので、真の値は5000-6000人程度となります。3月から4月は、医学的に全く正当性のない極端な検査抑制策、「家で4日待っていろ」と、保健所による門前払いによって多くの感染者が医療から排除されていたのですが、これを屁理屈で正当化していたのがジャパンオリジナル・国策翼賛エセ科学・エセ医療デマゴギーです。本件については後日詳細に論述する予定で準備を進めています。  3-4月に真の感染者数が実測値の10倍前後であることは当時の医療から排除された人々の多さや、死亡者などから実感としてあっていると思われます。筆者は複数の科学者、医療関係者と議論しましたが、第1波エピデミックで10倍、第2波エピデミックで3倍の乖離があることは納得し得ると言う意見が大多数を占めました。なお、IHMEは、3月から4月について2〜3倍の乖離と推定しています。したがって、現時点では、この倍数について科学的な合意はできていません。  7月から8月の第2波エピデミックでは、ICLは3〜4倍程度、IHMEは1.5倍程度と評価しています。この大きな改善は、医師会検査の導入による検査数の大幅な増加によります。  10月以降の第3波エピデミックでは、ICLは2.5〜3倍程度と見積もっていますが、IHMEは1倍としています。現在本邦は、検査陽性率が上昇しており、これは検査不足による感染者の見逃しが増えてゆくと考えられます。  次に日毎新規感染者数のICLによる28日間予測を見ます。
ICLによる日本の日毎新規感染者数28日間予測

ICLによる日本の日毎新規感染者数28日間予測
薄緑:現状維持 青:50%規制強化 赤:50%規制緩和
数値は、実測値ではなく推定される真の値である
ICL

 現状維持で、6,000人(実測値2,000人)の新規感染者数が15,000人(実測値5,000人)に達するのは12/15頃と予測されています。この数値は、今後の日本政府による介入次第で大きく減少する可能性があることは自明なのですが、介入が遅れれば遅れるほど上方修正される可能性が高くなります。  なお現在本邦の検査体制では、日毎新規感染者数は5000〜8000人/日程度で飽和してしまうと考えられ、さらに集計体制の脆弱さから、現時点で既に統計に乱れが発生していると考えられます。早急に検査体制と集計体制にてこ入れをしなければ、3月4月に比して桁外れの「検査負け」による多くの市民の医療からの排除が再び生じることになります。  最後にICLによる死亡数実績の評価と28日間予測を見ます。
ICLによる日本の日毎死亡数と11月23日からの28日間予測

ICLによる日本の日毎死亡数と11/23からの28日間予測
赤線:推定される真の死亡者数、赤網:95%信頼区間、黒点:実測値
数値は、実測値ではなく推定される真の値である
ICL

 ICLによる死亡数評価は実測値より多く見積もられていますが、これは検査による見逃しなどが原因で診断のつかなかった死者の存在を意味します。  12/21の死者数は、約50人と見積もられておりますが、IHMEでは11/19更新の予測で100人前後の死亡数を予測しています。  IHME、ICLともに死者数について楽観的な予測をしているのですが、これは新規感染者数の倍加時間*が現時点で大きな誤差を持つ為仕方ありません。残念なことに11/15以降の本邦統計の乱れから、倍加時間の見積もりは難しくなっています。 〈*数字が倍になるまでの時間。ドラえもんのバイバインの話を思い出すと良い。例えば倍加時間が10日ならば、2,000人/日の新規感染者が10日後には4,000人/日に、20日後には8,000人/日に30日後には、16,000人/日となる。これを指数関数的増加と呼ぶ。倍加時間は介入によって延びるし、特に人と人との接触が大きく減少すれば、指数関数的増加が飽和して減少に転じることになる。ワクチンが無い現状で介入による社会的行動制限が大きな効果を持つ理由である〉
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最新統計からわかる本邦の「対策の遅れ」
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