スペインが欧州で一番早く「新型コロナ感染者数100万人超」となってしまったワケ

スペイン・マドリード

スペイン・マドリード(shutterstock)

スペイン、ついに欧州初の感染者数100万人超に

 10月21日、スペインでの新型コロナウイルス感染者は100万5295人となってヨーロッパで初めて100万人を超えた。スペインの各メディアもそれを報じた。〈参照:「ABC」〉  最初の感染者は今年1月31日にカナリア諸島のゴメラ島でバケーションを愉しんでいたドイツ人から検出された。  非常事態宣言が終了した6月の時点での感染者数は24万6504人。しかし、この時点での無症状病原体保有者数は、カルロス3世健康協会によると、250万人と推定された。因みに、スペインの人口は4700万人。  そして今、感染者数が100万人を超え、現在の無症状病原体保有者数は350万人と推定されている。しかし、多くの専門家の間では500万人あたりが正しい予測だと見ている。即ち、人口の1割強が無症状病原体保有者数だということになる。〈参照:「El Pais」〉

不十分な対応、政府による死者数の「改ざん」

 1月から2月中旬までの段階では一般にメディアでそれが報道されても、スペインの市民の間では単にニュースのネタになっている程度の見方しかしていなかった。また、全国の診療所の医師の間でも新型コロナウイルスについての情報内容は薄く、感染して発病した患者に対しても診療所の医師は風邪を引いているという診断しかしなかった。  スペインでは各自治体に診療所があり、そこの医師にまず診断を仰ぐことになっている。それでより専門的に診る必要があると診療所の医師が判断すれば病院に送ることになっている。この場合に治療、手術、入院の費用は無料である。私立の病院と契約している人の場合は毎月契約金を払う義務があるが、そこに行って診断を仰ぐことになる。ということで、大半の場合は診療所の医師が重要な役目を担うことになっている。ところが、2月半ばまでは診療所の医師の間でもコロナウイルス感染による発病の重要性に気がつかなったのである。だから、風邪を引いていると診断してその薬を処方していた。ということで、診療所で感染した医師も当初は多くいた。  ところが、それが一般の風邪ではないということが診療所の医師の間でも明らかにされたのは、2月27日にマドリード州のトレホン・デ・アルドス市の病院に重体で入院した患者からであった。この時点で政府保健省も事態の重要性を認識。それまでは中国とイタリアに滞在したことのある人に対してだけPCR検査を実施していたが、それ以後は原因不明の肺炎に罹っている患者に対しても同検査をするようになった。〈参照:「El Pais」〉  ちなみに、スペインにおける新型コロナウイルス感染による「最初の死者」は、2月13日にバレンシアで死亡した人だとされている。この人はネパールで感染したらしく、バレンシアに戻って発病するまで3週間が経過していた。ということでその3週間の間に彼と接触した人を感染させていたということになる。  3月15日に政府は非常事態宣言を発令した。この時点での感染者は7700人、死者は288人であった。サンチェス首相はこの発令にあたって、このまま放置しておくと1週間後には感染者は2万8000人、死者800人に至るようになるということを懸念してそれを発令の理由とした。それが6月21日まで続いた。この封鎖期間中は勤務での移動や食料品の買い出しや薬局、病院、銀行、キオスクなどへの外出以外は移動が禁止された。勿論、バルやレストランなどは営業が禁止された。またスーパーなどに一度に入れる人数も制限され、同様に外で並ぶ人も2メートルの間隔を置くことが義務付けられた。  しかし、封鎖の初期段階の非常事態宣言が解除されたあと7月中旬の時点での感染者は25万6000人、死者2万8400人となっていた。しかし、この時点までに実際の死者数は4万6000人あまりとされている。即ち、公式発表による死者数と実際に死亡したとされている死者数に1万8000人あまりの開きがあるのは老人ホームで死亡した高齢者が公式死者数に加えられていないからである。理由は、政府は死亡した人がPCR検査で陽性と診断されずに死亡した人がコロナ感染による死者を認めていないからである。またカタルーニャでは自宅で死亡した場合はそれがコロナ感染による死者でも公式発表には加えなかった。唯一病院でPCR検査で陽性と事前に診断された場合のみ公式死者数とした。  ということで、この1万8000余りの死者は今も保健省の死者数の中には加えられていないという人道上に置いて許しがたい基準を維持したままである。  老人ホームは現在感染を防ぐ為の改善は行われたが、今も十分ではない。ところが、3月と4月の全国5500カ所余りある老人ホームでは感染を防ぐような医療設備はなく、老人をホームに入居している高齢者の家族の訪問や介護士らが感染していてもそれを老人ホーム内でその感染を抑制させる保健衛生面での体制はないに等しい状態であった。だから老人ホームはそこに入居している高齢者の墓場となっていた。
次のページ 
感染者数100万人超の理由
1
2
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会