無能な独裁者・安倍晋三による「法の停止」と「遅延する力」

安倍政権の「レガシー」

時事通信フォト

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 安倍晋三首相は8月28日、「体調不良」を理由に総理大臣職を退くことを発表した。これによって、2012年末から続く第二次安倍政権が終了することになった。  辞任が発表されて以後、この長期政権の「レガシー」はいったい何だったのかということが議論されている。経済、外交、憲法、また様々な不祥事やスキャンダル。経済では大胆な金融緩和を行うアベノミクスと呼ばれる政策パッケージを行い、経済成長の実現に取り組んだが、7年半の実質GDP成長率は他のOECD諸国と比べて低調であり、2019年には消費税増税を待たずして景気は後退に転じた。  外交ではアメリカやロシア、インドなどとの蜜月関係をアピールし、また中国とも良好な関係を保とうとした。一方で韓国とは2015年に「慰安婦合意」を行ったが、むしろ歴史認識問題を悪化させた。DPRK(編集部注:いわゆる「北朝鮮」を指す)の「飛翔体」問題については、平和的解決をこじれさせるよう画策したが、結果的に「蚊帳の外」となる始末であった。  2016年には山口県で日ロ首脳会談を行い、北方領土が四島返還される可能性をメディアを通じてほのめかしたが、2019年には日ソ共同宣言に基づく二島返還論ですら議論できなくなるような状況となった。  2012年の選挙ではTPP反対を公約に政権を奪回したにもかかわらず、その態度を一転させてTPP締結に取り組んだ。辺野古新基地問題では、沖縄県の反対を力づくで潰そうとし、また軟弱地盤の問題で物理的に建設が不可能なことが明らかになりつつあるにもかかわらず、いまだ建設を続けようとしている。  また、それぞれ合憲性が疑われ、多くの反対意見があったにも関わらず、秘密保護法、安全保障法、共謀罪法を強硬に制定した。しかし悲願である憲法改正については行うことができなかった。  政権中に誘致に成功したオリンピックは低予算での開催を標榜していたが雪だるま式に予算が拡大し、このコロナ禍にあっては延期された2021年に開かれるかすらあやしい。オリンピック誘致のために「アンダーコントロール」にあると宣言された福島原発は、いまだ終息の見通しが立っているとは言い難い。  原子力発電については、続けるのか減らすのか、宙吊り状態が続いている。政府のテコ入れで始められた原発輸出事業はそのすべてが失敗し、関連企業の損益を増やした。  森友・加計・桜を見る会などのスキャンダルにおいては、利益誘導それ自体の問題もさることながら、公文書管理の問題も話題となった。該当する資料を出せばすぐに白黒がつくはずの話を、政府は官僚を通して文書を隠蔽、破棄、改ざんさせた。  また、ここ30年来の問題となっている少子高齢化について政府は有効な施策を打てず、科学技術についても「選択と集中」という新自由主義政策を進めた結果、日本の地位が後退していることは数字上明らかとなっている。

安倍政権とは何だったのか

 筆者は安倍政権に批判的なので、この7年半に起きたことについてはどうしても否定的にみてしまう。しかし、安倍政権を肯定的にみる立場も、安倍政権を否定的にみる立場も、この政権の総括については混乱があるように思える。  一般的に安倍政権は、自民党の中でも右派であるとされる。いくつかの基本的人権や民主主義を脅かしかねない法案を強権的に通したが、右翼勢力にとって目の上のたんこぶである日本国憲法の改正はできなかった。  東アジア外交については、韓国に対しては一貫して強圧的にふるまい、「慰安婦合意」についても当事者にとっては受け入れがたい不十分さを持っていたにせよ、一方で日本の歴史修正主義者にとってもまた納得できないものだった。  中国には領土問題などを利用して市民の敵意を煽る一方、観光客を呼び込みたいという思惑などから、中国政府に対しては「親中的」な態度を取った。  経済については、新自由主義的な政策を推進し、オリンピック関連のハコモノ投資などがあったにせよ、従来型の公共事業は全体としてはむしろ減少した。一方で株価つり上げのため日銀に株を買い入れさせることで、国家が日本上場企業の多くで筆頭株主となっている。また経産官僚の思い付き経済政策を大量の税金を投入して行うなど、国家主導の経済を推進したと考えることもできる。  強硬さと脆弱さ、自由放任と国家主導、積極財政と緊縮財政、タカ派とハト派……安倍政権は、その場その場で双極的にその顔を変えていく。型通りの批評ではすべてを捉えきれない。論者によっては認識が混乱し、安倍政権は左派政権だったと主張してしまう者もいるぐらいだ。いったい、安倍政権とは結局何だったのだろうか。
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安倍政権による「法の停止」と安倍晋三の「弱さ」
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