止まらない医療・介護崩壊へのカウントダウン。「2025年問題」を避けるために知るべきこと

 私たちは、2025年問題に直面している。これはベビーブームのときに生まれた世代が75歳に達して、急激に多くの人が医療や介護を必要とするようになる年が2025年なので、「2025年問題」と呼ばれているのだ。そうすると、社会保障費などの財源や介護従事者がさらに必要となるが、私たち現役世代はそれを支えるだけの十分な余力があるのだろうか。

想像以上に深刻な介護問題

車椅子のイメージ

photo via Pexels

 私はこの問題について、介護従事者の労働環境にフォーカスを置きたい。なぜなら、私の母が介護従事者として10年以上働いていたということと、介護従事者の労働環境は、既に私たちの想像以上に改善の必要がある状態であり、多くの人が認知しておく必要があると考えたからだ。  我々は2025年までに十分な介護従事者の人材を確保、育成できるのだろうか。そして、2025年以降、介護従事者が安心して継続して働ける労働環境になっているのだろうか。  厚生労働省では、過重な仕事が原因で発症した脳・心臓疾患や、仕事による強いストレスなどが原因で発病した精神障害の状況について、平成14年から、労災請求件数や「業務上疾病」と認定し、労災保険給付を決定し、その請求件数や給付件数を業種別などで公開している。  平成30年に発表された精神障害における労災請求件数によると、社会保険・社会福祉・介護事業がトップだった。飲食店や情報サービス、医療業よりも高い数字となっている。  このような点においても、今後、介護を受ける必要がある人が増えていくなかで、まだ十分に社会問題としてフォーカスがあたっていないのが現状だ。

ストレスを押し殺すための「笑顔」

 また、離職率を見ると産業計よりも介護従事者のほうが若干高く、離職した理由を見てみると、「職場の人間関係に問題があったため」というケースが最も多い。職場の人間環境という問題は、一般的に多そうなイメージがあるが、その割合は介護以外の仕事を辞めた人のそれよりも多い。  人間関係で発生するトラブルにおいては様々な原因が考えられるが、そのなかでも介護の仕事が「感情労働」であることが、問題の要因のひとつではないかと考えられる。    感情労働に関する詳しい内容は過去に書いた記事を参考にしていただきたいが、簡単に説明すると、相手の感情を誘導するために、自分の感情を管理、抑圧することを伴う労働のことを指す。  例えば、介護の仕事で入居者に暴力を振るわれてイラッとしても、介護従事者は入居者に落ち着いてもらうために、怒りの感情を押し殺して笑顔を作るといった本来の感情を抑制する感情のコントロールを行う。
次のページ 
誠実であるがゆえにたまり続けるストレス
1
2
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会