アルコールは何処に行った? 対ウイルスで知っておくべき「アルコール」のこと

消毒には何がよいか

 一般向けのコロナウィルス対策としての消毒にはアルコール濃度60~80%程度のエチルアルコールが極めて好適です。プロパノールが混ざっている場合は、総アルコール濃度60-80%とします。メタノールが混ざっているものは、安全のために避けましょう。濃度が高い場合は、水道水で薄めればよいです。  蒸留水や精製水は、命に関わって必要とする人が居ますので無意味に使わないようにしましょう。水道水で全く問題ありません。ミネラルウォーターはむしろ好ましくありません。  アルコールはコロナウィルスのエンベロープを溶かして破壊します。60-80%エタノールは一分程度の接触でコロナウィルスをノックアウトします。しかもすぐに蒸発するのであとに残りません。(厳密には水が残ります。)  外出時など手指が洗えないときや、何かと接触したとき、手指やカートの握りや車のハンドルなどスプレイして滅菌できます(高級車ではアルコールが悪さをすることがあります)し、すぐに乾きます。  筆者は、アルコールをスプレイボトルに入れて持ち歩いています。なんでも舐めるアリクイ君が、なんでもシュッシュするテッポウウオ(アーチャーフィッシュ)に変わりました。そして、水回りはアルコールが流れてしまうために500ppmに薄めたハイターを使って消毒しています。このハイター類については、別の機会にご紹介します。  なお今回はプロパノールについては説明を省略しています。理由は、やや高価(2-プロパノールで1200円/リットル前後)であり、変性アルコールなどエタノールの混ぜ物以外の形では元々一般向けには流通していないからです。プロパノールの安全性はエタノールにやや劣りますが、強力な脱脂能力と殺菌力がありますので医療現場では消毒用に使われています。なお、プロパノールは全体で年間20万トン程度生産されていますので潤沢にあります。

なんでアルコールは消えたのか

 新型コロナウィルスと闘うために極めて便利で必須な消毒用アルコールですが、膨大な量が国内で流通しているにもかかわらず、市中から消え、自殺者まででたと報じられています*。勿論、一時的には需要の急増に供給が追いつかない為の品切れは起こりえますが今回は、供給回復の目処がついていません。 〈*聖火ランナーのとんかつ店主、火災で死亡 生前は延期や新型コロナ影響を悲観 2020/05/02毎日新聞〉  なぜこんな情けないことが起きているのでしょうか。これはエタノール特有の省庁間の調整という本来、政治家が直ちに介入すべき事が背景としてあるのです。  エタノールは、酒税が関わるため、医薬品向けは薬機法が関わるために財務省、経産省、厚労省が関わっており、法規制がたいへんに複雑です。  このため市場には大量のエタノールやプロパノールがありますが、アルコール事業法、酒税法、薬機法の敷居をまたぐことができず、出荷が出来ない状態が続いています。  典型的な事例が、納付金が不要な変性アルコールで、エタノールとプロパノールという組成で消毒用アルコールとほぼ同じに薄めれば使えるはずのものが市中に大量且つ安価にありますが、薬機法のために出荷できません。  四月半ば以降、酒造メーカーがアルコール濃度60-77%のお酒を「消毒薬ではない、飲み物」として出荷し、事実上の消毒薬として歓迎されていますが、酒税(エタノール77%で770円/リットル)がかかるうえに「医薬品ではない」という建前でお酒を事実上の消毒薬として出荷するという裏技的な方法がとられています。  無いよりは遙かにマシですが、酒税を抜いても*かなり高価であり、たいへん歪な商品となっています。 〈*2020/5/1以降は、医療機関向けには煩雑な手続きを要するものの酒税非課税となった。参照:「高濃度エタノール製品」に該当する酒類を製造している酒類製造者の方へ2020/05/01国税庁  省庁間での調整が行われていることは事実ですが、融通が利かず、時間を浪費していますし、根本的な解決には遠いです。  本来は、政治=内閣または立法府から省庁に指示をし、役人を動かす案件の典型なのですが、その動きが見えません。要は政治、この場合与党政治家が仕事をしていないことが原因と言えます。かつての自民党ならば即座に解決していたことです。  次回は、この規制の壁によるアルコールの目詰まりについて論じます。PCR検査にしろアルコールにしろ何でもかんでも政治が動かずに目詰まりがおこり、市民が犠牲になっています。情けないことです。 ◆コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」新型コロナ感染症シリーズ5 <文/牧田寛>
Twitter ID:@BB45_Colorado まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題について、そして2020年4月からは新型コロナウィルス・パンデミックについてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中
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