「○万円で暮らせるバンコク」の嘘。まともに暮らせる生活費を見積もってみた

コーヒースタンド

コーヒースタンドも多いが、安いところでも50バーツ(約175円)はする

「物価が安いタイ」は過去のもの

 2019年12月上旬に、タイ国内のニュースを中心に発信するニュースクリップなどがタイ・バンコクの生活費ランキングを報道した。 ”英人材調査会社ECAインターナショナルが世界の480以上の都市で外国人駐在員の生活費を調べた2019年のランキングで、バンコクは47位と前年の90位から大きくランクを上げ、過去2年で75ランクアップした。  バーツ高の影響が大きく、タイ北部チェンマイも過去2年で56ランクアップした。”  記事内にもあるが、バーツ高の影響で国外と比較してランキングが急上昇しているのが一因ではあるが、実際、タイの物価上昇は著しく、バーツ建てで見ても生活費はかなり上がった。タイ人の中には「かつては100バーツで3日過ごせたが、今は300バーツで1日も過ごせない」といったことが書かれた画像をSNSなどで拡散している。  東南アジアは物価が安いというのは最早昔のことで、今はそうではないというのが現実だ。  もちろん、旅行でバンコクを訪れた場合はバーツ高とはいえ物価を安く感じることはある。たとえばタクシーは初乗りが35バーツなので約125円程度だ。タイ料理も日本では高額設定が多いが、タイでは日常の食事なので安い。  しかし、旅行と居住では物価感覚はまったく違ってくる。日本のテレビやネット記事などではよく「○万円で暮らせるバンコク」といった特集などが組まれる。ネットの発達でこれらの情報はタイ国内でもオンタイムで見られるが、多くのタイ在住者が首をかしげていることだろう。  30万円で暮らせるバンコクならともかく、3万円5万円で暮らせるバンコクなどと特集されると違和感しかないのだ。バンコクでまともに暮らしたことがない人が書いていることは一目瞭然で、その金額は現実的ではない。  では、実際にバンコクで暮らすにはどれくらい生活費がかかるのか、在住者目線で見てみよう。

「○万円で暮らせるバンコク」の嘘

タイのダイソー

タイのダイソーは60バーツ均一なので、約210円になる

 まず、3万円というのは非常に非現実的な金額である。3万円は概ね8200バーツくらい。タイ人の中にはこれくらいの所得もいることは事実だ。ただ、バンコクにおいては所得がかなり低い方だと思うべきだ。  この金額でタイ人も暮らしているというのは大雑把には間違いではない。しかし、大きな前提が抜けていることを「○万円で暮らせるバンコク」を書く人は一切紹介していないケースが多い。  その前提とは、そういった低所得層のタイ人はひとりで暮らしていない、ということだ。タイだけでなく東南アジアでは基本的に低所得者層になればなるほどひとり部屋とは無縁である。こういった国の人を日本に企業研修で呼び寄せる際、日本側が気を遣ってひとり部屋を与えると、その国の人たちは逆に虐待と受け取るケースがあるのだとか。独房に放り込まれた気分になるそうで、大部屋で雑魚寝させた方が安心するという。  バンコクで外国人が暮らせる最低限のアパートは家賃が4000~6000バーツ前後(1万3000~2万円前後)になる。これ以上安いところもあるが、治安が悪かったり、都心から離れているので、タイ語ができないとかなり厳しい地域になる。仮に4000バーツとしても、ひとりで住むならすでに3万円の半分は消えていくことになる。誰かとシェアするとしても、20数平米の四角い部屋にはプライバシーはなく、普通の日本人の感覚なら耐えられないかもしれない。  また、こういったアパートには台所がない。バンコクは特に外食文化で屋台があるから問題はないが、これも値上がりしている。2000年前半は一食が25~30バーツ程度だった。これも1990年代からしたら値上がりしているのだが、今はその倍の50バーツくらいが当たり前になっている。50バーツ×3食×30日で4500バーツになる。家賃4000バーツと合わせれば、これですでに3万円をオーバーしている。しかも、屋台料理はタイ人の食習慣に合わせて量が少ないので、若い人だとこれでは足りない。  見方によってはこれで暮らせないわけではない。屋台を中心にしていれば、光熱費などを合わせても4万円5万円なら暮らせるのではないか。そう思うのは浅はかだ。実はここにタイで暮らしたことがない人が知らない大きな落とし穴がある。
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タイを知らない人の「落とし穴」
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