大学入試の未来はどうなるのか ―第3回検討会議の内容と委員の腹積もり―

会議の概要

検討会議 2020年2月13日に第3回の「大学入試のあり方に関する検討会議」が開かれました。第2回が開かれた2月7日から6日後の開催ですが、これはこれまでの文科省の会議では極めて珍しく短期間での開催です。なお、検討会議の参加者については、第1回目の会議に関する記事で紹介しましたが、このうち荒瀬委員、清水委員、牧田委員の3名が欠席しました。  さて、今回は団体代表からの意見を聞く会であったようです。この検討会議には7名の団体代表が参加していますが、前回発表した牧田和樹委員((一社)全国高等学校PTA連合会)と小林弘祐委員(日本私立大学協会入試委員会委員長・北里研究所理事長)を除く5名の委員が資料を交えながら意見を発表しました。  会議は次のように進行しました。 ・萩原聡委員(全国高等学校長協会会長、都立西高校長):10分 ・吉田晋委員(日本私立中学高等学校連合会会長、富士見丘学園理事長):20分 ・質疑応答:10分 ・岡正朗委員(国立大学協会入試委員会委員長、山口大学長):15分 ・柴田洋三郎委員(公立大学協会指名理事、福岡県立大理事長):10分 ・芝井敬司委員(日本私立大学連盟常務理事、関西大学長):10分 ・質疑応答:40分

会議は民間試験の話が中心、記述式についても討論された

 今回の会議のテーマの中心は英語の4技能(読む・聞く・書く・話す)を測るために導入しようとした民間試験のこれまでの経緯と数学と国語の記述式についてです。英語の4技能に関しては、それらをどのようなバランスで扱うかには細かな意見の違いはあるものの、概ね4技能は必要であることについては一致しています。それを民間試験で測るかどうかがこの会議の中心的な話題です。また、記述式に関する議論も時間をかけて行われました。  細部の説明の前に特徴的なやりとりを抜き出して説明しておきましょう。まず、20分にわたり意見を述べた吉田委員の話を紹介します。これまでの入試改革からのメンバーであった吉田委員のロジックはつぎのようなものです。(吉田委員の気持ちを私が想像で補った部分もあります) ・英語の力を測るためには、4技能の試験が絶対に必要である。 ・自分(吉田委員)は、高2でも受験可能としたかったが、早期の受験対策を始める懸念などから否定された。これ以外にも途中から自分の考えていた方向が否定され、考えと違う方向に進んでいった。 ・その結果、民間試験は延期になった。途中から自分の考えと違う方向に進んでいって頓挫してしまったので、不満が残る。 ・数学と国語の記述式についても、大学側が採点を拒否したから、民間に委託する流れになってしまった。  もう一つ注目しておきたい発言は、国大協(国立大学協会)の岡委員からの、「国大協としては一貫して4技能は必要という認識であったが、民間試験で測ることは疑問をもっていた」というものです。このことについて、「あれ?」と思う方もいらっしゃると思いますので少し説明を加えます。 【1】国大協は2017年6月14日の「高大接続改革の進捗状況について」に対する意見を出した段階では民間試験には慎重という姿勢でした。(「現時点での共通テストの英語試験の廃止の可否を判断することは拙速と言わざるを得ない」同意見書より) 【2】その後の「国立大学協会の方針」(2017年11月10日)を出したときには、急に民間試験を利用すべきという立場に変更されました。(「国立大学としては、新テストの枠組みにおける5教科7科目の位置づけとして認定試験(民間試験のこと)を『一般選抜』の全受験生に課すとともに、2023年度までは、センターの新テストにおいて実施される英語試験を併せて課すこととし、それらの結果を入学者選抜に活用する」同方針書より)  この決定は、2019年11月1日の萩生田大臣による民間試験利用の延期発表まで効力がありました。したがって、一貫して民間試験に反対していたことは事実と反します。また、民間試験を利用する立場であった吉田委員からすれば、途中から急に民間試験を使うと言い出したことに対して態度が一貫していないという指摘が出され、これに対して岡委員は、話題を変えて答えていませんでした。  後半の自由討論では、主に(末富委員、両角委員)vs(団体代表)といったやり取り(必ずしも対立構造ではない)が中心でした。両角委員からは、「条件つき記述式(論述ではなく制限された記述式の意味)で能力が測れるのか」という質問があり、これについては否定的な意見が多く出されました。末富委員からは、「民間試験と学習指導要領の整合性」について再度の質問がありました。「再度」というのは、これまでにも何度か同じ質問をしているのですが、文科省側が回答を保留しているからです。  この他に萩生田大臣と渡部委員の発言があり、他の委員の発言はありませんでした。
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各委員の発言の要旨はこれだ
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