スイーツブームの中で姿を消す「アイスチェーン」――あの「世界大手」も日本から撤退

 ホットタピオカミルクティー、ホットチーズティー、いちごあめ……次々と新たなスイーツのブームが訪れるなか、この冬に2つの大手アイスチェーンがひっそりと日本から姿を消したことをご存知だろうか。
かつての大手アイス店「デイリークイーン」

かつての大手アイス店「デイリークイーン」、あなたは覚えていますか……?

都内から抜け出せなかった「ベン&ジェリーズ」、カップアイス販売も終了

 国内から姿を消すことになった大手アイスチェーンの1つが、ユニリーバ・ジャパン傘下の「ユニリーバ・ジャパン・カスタマーマーケティング」(東京都目黒区)が運営する高級アイスクリーム専門店「BEN&JERRY’S(ベン&ジェリーズ)」だ。  ベン&ジェリーズは1978年5月に、米国バーモント州バーリントンのガソリンスタンド跡で創業。創業初期より自然派路線のアイスクリームブランドをアピールすることで急成長し、欧米諸国を中心に店舗網を拡大した。
「自然派」を謳っていたベン&ジェリーズのアイス

「自然派」を謳っていたベン&ジェリーズのアイス。
個性あるフレーバーも特徴で「意識高い系アイス」として一部で人気を集めたが……。

 日本市場には1998年にセブン-イレブンへの商品供給を通して進出。1999年には米国法人が出資する「ベン&ジェリーズ・ジャパン」を設立し、販路拡大や各種チャリティイベントの開催を打ち出したが、2000年4月に米国法人が英国ユニリーバ傘下となる経営環境の変化もあり、2003年までに一旦撤退。その後、2012年にユニリーバ・ジャパン・マーケティング運営のもと日本再進出し、2012年4月には日本初となる直営店を渋谷区の「表参道ヒルズ」に出店、同年12月には武蔵野市の「コピス吉祥寺」に、2013年1月には江東区の「ららぽーと豊洲」にフードコート対応型店舗を出店した。  また、2014年3月には「ミニカップアイス」の卸売事業を首都圏の高級食品スーパー120店舗を皮切りに開始。「自然派」でありながら「コットンキャンディー味」「チャンキーモンキー味(チョコバナナ)」など、他の高級アイスとは一線を画す味付けと独特の世界感は話題を集めた。
ベン&ジェリーズららぽーと豊洲店

ベン&ジェリーズららぽーと豊洲店

 その後、カップアイスは首都圏・関西圏の大手スーパー、宅配チェーンを中心に販売網を順次拡大するとともに、「自然派」を武器にしてテレビCMの放映もおこなっていたものの、店舗は最盛期でも都内のみで、実店舗を大きく増やすに至らなかった。  国内最後の店舗となったのはららぽーと豊洲店。世界約30か国に展開する大手チェーンでありながら、ひっそりとした終幕であった。

かつて「国内大手」だったデイリークイーン、なんと最後の店舗は「鳥羽」

 そして、国内からひっそりと消えたもう1つの大手アイスチェーンが、かつて全国各地に展開しており一世を風靡した「デイリークイーン」日本最後の店舗だ。  デイリークイーン(DQ)は1973年に米国大手ハンバーガーチェーン「米デイリークイーン」(1940年創業)と大手商社「丸紅」の共同出資により日本法人を設立、松屋銀座に1号店を出店した。ソフトクリームを始めとするスイーツを主力商品としたファストフード店として営業したが、競合他社との競争激化や多店舗展開の出遅れもあり、早くも1990年代に経営悪化に陥った。この当時、最盛期には全国300店舗ほどの店舗を展開しており、業界最大手だったサーティワン(バスキン・ロビンス)とも肩を並べる規模であったため、小さい頃に店に通った思い出がある人も多いのではないだろうか。
世界各地で見られる「DQ」のロゴ(シンガポール)

世界各地で見られる「DQ」のロゴ(シンガポール)。
なお、2020年現在同社はシンガポールからも撤退済みであるため写真の店舗は閉店済み。

 その後、1996年4月には日本法人を新会社「デイリークイーンジャパン」(丸紅65%、山崎製パン30%、明治乳業5%)に移行、丸紅傘下のベーカリーカフェ「カフェプラッツ」や山崎傘下のコンビニ「デイリーヤマザキ」への商品供給で再建を目指した。しかし、店舗網は最盛期の1割ほどにまで縮小し、2004年3月限りでの日本からの撤退を発表。しかし、一部の店舗は自主営業で営業を継続することとなる。 最後に残ったデイリークイーンの店舗である「デイリーキング鳥羽店」は、水族館や真珠島で知られるリゾート地・三重県鳥羽市のショッピングセンター内にあった。
デイリークイーン日本最後の店舗はなんと三重県・鳥羽のスーパーに!

デイリークイーン日本最後の店舗はなんと三重県・鳥羽のスーパーに!

 デイリーキング鳥羽店の前身となるデイリークイーン鳥羽店は、1978年7月の鳥羽ショッピングプラザハロー(鳥羽ハロープラザ、核テナントはジャスコ→イオン)開業に合わせて開店。2004年3月のデイリークイーン撤退に伴い自主営業となり、のちに屋号を「デイリーキング」に変更した。  デイリーキング鳥羽店は、屋号変更後もデイリークイーンの代表商品であったチョコレートソフトクリームやチキンフィレサンド、ホットドッグといった商品を引き継ぎ、また店舗内装、各種販促物もデイリークイーンのものを使用。地域住民のみならず、かつてのデイリークイーンファンや昭和レトロ愛好家にも存在が知られる存在となっていた。店員氏に伺ったところ、「デイリークイーン(デイリーキング)のために鳥羽に来た」という人も少なくなく、全国からの来店があったという。
デイリークイーン日本最後の店舗となった「デイリーキング鳥羽店」

デイリークイーン日本最後の店舗となった「デイリーキング鳥羽店」。
「あの頃のファストフード店」を感じさせるレトロな雰囲気も魅力だった。

 しかし、このデイリーキング鳥羽店も1月15日を以て閉店。デイリークイーンの日本撤退発表から16年を経て、ついに国内から完全に消滅することとなった。

撤退続く外資系アイス実店舗

 さて、近年撤退した外資系アイスチェーンといえばこの2つのみではない。「ハーゲンダッツ」も2013年までに日本国内の実店舗を全店閉鎖、歌を歌いながらアイスを混ぜることで話題を呼んだ「コールドストーンクリーマリー」も店舗数を大きく減らしており、なかなか定着しないという印象が付きまとう。  日本ではコンビニエンスストアやスーパーマーケットなど、アイスクリームが多くの品揃えから選べる場が身近に多くある。ハーゲンダッツの日本撤退は、直営店舗よりもこうしたコンビニエンスストアやスーパーへの卸売りを重視するためであったとも言われる。実際、ハーゲンダッツはセブンイレブンと提携して限定商品の販売などをおこなっており、SNSで話題を呼ぶなど売り上げは好調だ。
日本からは姿を消したハーゲンダッツの実店舗(台湾)

日本からは姿を消したハーゲンダッツの実店舗(台湾)

台湾は日本と商環境が似ている地域ではあるがコールドスイーツチェーンが多く存在する

台湾は日本と商環境が似ている地域ではあるがコールドスイーツチェーンが多く存在する。
「気候差」も大きな要因であろう

 一方で、今回日本から消滅した2社はハーゲンダッツとは異なり、いずれも日本からの「完全撤退」であるため卸売事業なども行われない。そのため、今後は「海外にいかないと食べることができない味」となってしまった。世界大手として知られる企業だけに、ハンバーガーチェーン「ウェンディーズ」などのように運営企業を変えての再進出も期待されるが、両社ともに一度事業主体を変えて再挑戦したのちの撤退であることを考えるとやはり「望み薄」なのかも知れない。  なお、コンビニエンスストアやスーパーで販売されている「ベン&ジェリーズ」の輸入アイスクリームについては今年3月まで納品を行い、在庫が無くなるまで日本国内で販売されるという。日本のアイスとは一味違うあの雰囲気を味わうなら今のうちだ。 <取材・文・撮影/淡川雄太(都市商業研究所)>
若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体『都市商業研究所』。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「@toshouken
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