情報技術は人権を守るのか、抑圧するのか。ゲーム開発者視点で選ぶ、2019年10大ギークニュース

情報技術と世界

Pete Linforth via Pixabay

 今年も残すところあと少しになった。というわけで、IT業界に身を置く人間として、今年の10大ニュースを私的にまとめてみようと思う。特に順位は付けず、時系列で並べていく。

権利を狭める立法、警察権力の暴走

◆ 1. 2019年3月2日 ダウンロード違法化拡大を先送り  誰のための法律か分からず、法で守ると謳っている、当のマンガ家たちから大反対を受けた法律。同法は現状にそぐわず、多くの国民を違法状態に置き、自由な逮捕が可能になる問題を抱えている。こうした規制はネット上での活動を著しく阻害するだけでなく、健全な情報技術の発展を阻み、日本の国際的な競争力を削ぐ。  表現規制、通信の自由の制限、思想統制を含めて、国民の足並みが揃わない文化面から、権利をせばめていく立法はたびたび出てくる。国民の監視が必要な案件だと考えている。 ◆ 2. 2019年3月27日 コインハイブ事件で無罪判決  コインハイブ事件は、自身のウェブサイトにコインハイブを設置したことが、ウイルス罪に当たるか問われた事件である。無限アラート事件とともに、警察組織が情報技術の世界と大きく対立した事件だと言える。  同事件は3月27日に無罪判決が出たあと、4月10日に横浜地検が東京高裁に控訴した。そして11月8日に東京高裁で控訴審が始まった。  警察の示威的な捜査、法律の恣意的解釈による逮捕、IT業界の健全な発展の阻害など、多くの問題が詰まった事件だ。警察の暴走をどうするか、IT業界に身を置かない人間も注目する必要がある。 ◆ 3. 2019年3月31日 香港民主化デモ  今年最も大きな世界的ニュースを2つ挙げるとすれば、香港民主化デモと、米中の経済戦争だろう。  2019年3月29日に逃亡犯条例改正案が起草され、香港でデモが始まり、民主化を求める内戦に近い状態へと発展した。12月の現在、デモは収束することなくまだ続いている。  肥大する中国の力と、人権に重きを置かない同国の方針が、世界の多くの民主主義国家と摩擦を起こしている。  中国は世界の中でもトップレベルのIT先進国だ。そして監視国家でもある。その国の中で、個人を守りながら組織を作り、革命的な活動をおこなう。情報技術は体制側に有利に働くのか、個人側に有利に働くのかといった興味もある。  世界の方向性として、人権は守る方に向かうのか、抑圧される方に向かうのか。民主主義国家の中でも、人権を制限する方に憲法を変えようとする動きがある。香港民主化デモは、世界の方向性を占う大きな事件として注目している。

「令和」で噴出する現代日本の課題

◆ 4. 2019年4月19日 東池袋自動車暴走死傷事故  時代を象徴する事件というものがある。その時点での様々な社会問題が、一気に噴出する事件のことだ。「上級国民」という言葉で代表されるこの事件は、格差、高齢化、車社会といった、現在の日本が抱える問題が、噴き出た内容となっている。  また、国や法に対する国民のあり方という点でも注目している。加害者側は、徹底的に責任を免れようとする態度を取り、外から見ると様々な優遇を受けているように映る。それに対して被害者側は、ネットワーク化された社会の感情を集約して、司法を動かそうとしている。  法律で処理されるはずの事件ではあるが、その外での戦いが展開されているように見える。そこから受ける印象は、国や法に対しての著しい信頼の低下だ。社会や法は公正であるという建前が大きく崩れているのを感じる。  事件を取り巻く、ネット上の世論も含めて、非常に注目度の高い事件だと言える。 ◆ 5. 2019年5月1日 令和に改元  IT業界に身を置く人間として、個人的に最も注目していたのが、各種書類がどれだけ西暦に変わるかという点だった。  しかし、驚くほど西暦にならず、元号が維持された。年末の書類を書きながら、令和という項目が追加されているのを見て、そう感じている。  もし国が、情報技術方面での国際的な競争力を上げたいと考えているなら、この機会に各種書類を西暦にする立法をしてもよかったのではないかと思う。世界で戦うには、そうした大胆な手を次々と打っていかなければならない。
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「記録を残さない政府」にITの敗北を見た
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