転職や異動でスキルが水の泡に!? 効果的に転用をする秘訣はあるのか?

 技術者や研究者として専門性を極めるか、組織を束ねる役割を担いリーダーシップを発揮するか……。キャリア形成する中で、ある時期にこの選択に直面するビジネスパーソンは少なくない。そしてたいていの場合、二者択一でどちらかを選ぶという思考に至る。

アイデアの創造と知恵の結集、両方に取り組む

中原崇人氏と山口 博氏

アステラス製薬株式会社研究本部研究プログラム推進部 プログラム推進グループ長 薬学博士 中原崇人氏(左)とモチベーションファクター株式会社代表取締役社長 山口 博氏(右)

 しかし、専門性とリーダーシップは両立しないのだろうか? 専門性をリーダーシップ発揮に活かすことはできないのだろうか? 今回は、アステラス製薬研究本部で研究プログラムを推進する中原崇人氏に本連載「分解スキル反復演習が人生を変える」でお馴染みの山口博氏が迫る。  山口博氏(以下、山口):「中原さんは薬学博士として研究活動を極めた後、経営企画業務や研究プログラム推進業務に携わってこられました。大きな振れ幅でキャリア開発をされてきたように拝察します」  中原崇人氏(以下、中原):「入社後、がん領域の研究者として、新薬候補の探索から臨床開発プロジェクト推進業務と幅広く従事してきました。入社してからの最初の3年間は見るもの聞くもの全てが新しい経験で、あっという間に時間が過ぎたことを覚えています。  その後、主に研究・開発プロジェクトのリーダーとして、海外も含めて様々な領域の専門性を持つ社内外の方々と仕事を一緒にする多くの機会に恵まれました。経営企画部を経て、現在は研究本部の研究プログラム推進部 プログラム推進グループ長を務めています」  山口:「なるほど、主にがん領域においてプロジェクトリーダーとして取り組まれてきたとのことですが、そこから経営企画、その後、研究プログラム推進部と、キャリアをジャンプされているのですね」  中原:「元より、病で苦しむ人々を救う医学に高い興味がありました。そして、新薬を生み出すこことは今も昔も変わらない自分の強いモチベーションになっています。  どのような業界・団体についても言えることかと思いますが、世の中に新しい価値を届けるためには、個人の独創的なアイデアと数多くの人々の知恵の結晶の両方が必要だと思っています。独創的なアイデアを求められる研究所からキャリアをスタートし、現在に至っていることは自分としては必然的な流れだったのかなと考えています」  山口:「独創的なアイデアの創出に取り組んできたことをふまえて、知恵の結集を担ってこられたのですね。しかし、ステップアップする度に求められるビジネススキル、リーダーシップが異なるのではないでしょうか」

研究者としてのスキルはリーダーシップに活用できる

中原崇人氏

中原崇人氏

 中原:「研究者の時代には、専門領域での知識、創薬プロセスの習得が高いハードルになりました。それらはしかも日進月歩であり、老舗の秘伝のたれのように、少しずつ入れ替えて維持していかなければ使い物になりません。自らの専門性を見極める準備の時期であったと記憶しています。  プロジェクトリーダーになってからは、自らの専門性を生かしながら、周囲を巻き込む力、状況を冷静に見つめる俯瞰力の重要性を痛感しました。経営企画部では研究本部の組織改革と全社のビジョン策定のリーダーに任命されました。それまでの創薬プロジェクトと比較して、求められる背景知識が異なり困惑しました」  山口:「なるほど」  中原:「しかしながら、問題点や課題を見極め、優先度順にマネジメントしていくこと、自らの考えをメンバーや上長に効率的に伝えて必要な支援を求めるスキルは過去の経験と似ていると気づき、視点はさらに拡がりました。  組織マネージャーになった今では、メンバーそれぞれの個性を尊重し、モチベーションを保っていくために、繊細かつ大胆なリーダーシップが必要だと痛感しています。まだ答えは見つかりませんが、個々のメンバーの自己実現の機会を会社が提供できるよう調整するスキルを身に着けたいと思っています」  山口:「まさにキャリアに応じて、専門性、巻き込み力、それらをふまえたリーダーシップスキルを発揮されてこられたのですが、専門性を発揮するスキルは、組織を束ねるために必要なスキルと共通項がありますか?」  中原:「これらには共通項があると思います。研究者には、自然科学の真理を探求するための論理的思考のスキルがあります。これは難解なパズルに挑戦したくなる傾向と言ってもいいのかも知れません。  これらのスキルは一見すると、組織を束ねるために必要なスキルと異なるように感じられるかも知れません。しかし、このスキルは組織共通の問題の根本原因を見極め、あらゆる手段・専門性を駆使して解決する際に応用できると考えています」
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身につけたスキルをうまく応用する秘訣とは
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