「富の格差拡大」は社会を壊す。チリやエクアドルなど南米諸国で頻発するデモの根底にある不平等社会

チリのピニェラ大統領への抗議デモ

チリのピニェラ大統領への抗議デモ (Photo by Claudio Santana/Getty Images)

 エクアドルやチリで、政府への大規模な抗議デモが起きている。  その根本的な原因は、ラテンアメリカは富の分配が不平等な地域であることだ。  米国のクリントン元大統領政権時の国務長官、マデレーン・オルブライト氏は「汚職と増えている社会の不平等がラテンアメリカの民主主義の脅威である」と30年前に述べていた。

10人に1人が極貧状態

 ラテンアメリカでは10人にひとりが極貧状態にあるという。その数は2002年には5700万人であったのが、15年後には6200万人と増えている。10%の貧困層は分配される富の僅か1.1%しか享受できないのに比較して41.3%の富の分配を授かっているのは10%の富裕層だということになっている。(参照:「El Pais」、「Infobae」)  世銀の調査によると、経済協力開発機構(OECD)に加盟している国は課税が平均して35%に対してラテンアメリカでは20%しかない。また課税によって同機構に加盟している国は富の不平等を17%是正しているのに対し、ラテンアメリカでは僅か3%しかそれに貢献していないという。  ただ、この数十年でボリビア、エクアドル、ブラジル、エルサルバドル、パナマといった国々では富の不平等は幾分か是正されている。例えば、ボリビアの場合は10%の富裕者と10%の貧困者の富の不平等の差は1999/2000 は149倍の開きがあったのがそれから15年経過した時点でその差は29%まで縮まった。エクアドルは63%が22%まで短縮された。ブラジルは55%から33%、パナマは59%から27%、ペルーは51%から20%といった具合でそれぞれ短縮された。(参照:「Infobae」)  しかし、そうはいっても、もともと税収による歳入が少ないということから教育や社会生活の改善のための投資が少ない。よって、例えば貧困者の教育へのアクセスや社会保障を享受するといった機会に恵まれていない。それが社会での不平等をさらに煽ることになっている。(参照:「El Observador」)

右派でも左派でも権力は腐敗する

 そのようなことから、政府が一般市民の利益を保護してくれないと考えいる人たちが75%もいるという。だから真の民主主義が施行されていると考えている市民は5%しかいない。そのような事情から社会を是正して貧困者を優遇すると唱えた社会主義の思想をもった政治家がリーダーとして登場するようになるのである。  ボリビアのエボ・モラレス、エクアドルのラファエル・コレア、ブラジルのルラ・ダ・シルバといった人物が大統領に選ばれて多くの市民から支持を集めたのである。彼らが登場して前述したように確かに不平等は幾分か改善された。しかし、彼らも政権が長期化すると権力の上で胡坐をかくようになり、ラファエル・コレアもルラ・デ・シルバも汚職で、前者はベルギーに亡命し、後者は刑務所に収監されている。エボ・モラレスはつい先日4選で勝利したが、この当選を受けて反対派のデモや暴動が起き、50%以上の有権者は不正選挙で選ばれたと考えているそうだ。  誤った経済政策ネポティズムとネポティズム(縁故主義)が横行する、「腐敗した権力」の好例はベネズエラである。ウーゴ・チャベスが社会主義ボリバル革命を謳って登場したが、原油から得る歳入だけを頼りにして経済構造に改革をもたらすことをせず、原油の輸出で得た歳入は一部国民に社会援助といった形で還元して彼へを支持を永続させようとしたが、その多くは彼を取り巻くグループや私腹を肥やすことに費やされたのだ。  そして原油の価格の下落とともに資金難となりボリバル革命は崩壊した。それを国民を犠牲にしてまで強引に継続させようとしているのがマドゥロ大統領である。因みに、今年末までにベネズエラを脱出する人の数は600万人にまで到達すると予測されている。  間違った経済政策とネポティズムに偏る独裁政権はどこの国だろうと政権から退いてもらうべきなのだ。
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経済成長の陰で犠牲になった中流層の不満が爆発したチリ
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