アマゾンの謎の通信規格、「Amazon Sidewalk」って何だ?

amazon_device

Amazon Devices Event 2019で発表されたニューガジェット。写真/Amazon

アマゾンが、IoT向け通信規格 Amazon Sidewalk を発表

 9月の下旬、アマゾンは米国シアトルの本社で開催した「Amazon Devices Event 2019」で新製品を発表した。スマートグラス「Echo Frames」や、アレクサ対応の指輪「Echo Loop」ワイヤレスイヤホン「Echo Buds」、最新版Echoスピーカーなどとともに、ある技術が発表された。IoT向けの新通信技術「Amazon Sidewalk」だ(参照:BUSINESS INSIDER JAPAN/MONOist)。  新製品の発表会なのに通信技術が発表されるのは奇妙に思える。しかし、新しい製品を出すには、新しい技術が必要なこともある。実際に、Amazon Sidewalk を利用した製品も2020年内に発売予定だ。飼い犬向けのトラッカー「Ring Fetch」である。ペットがエリア外に出たら知らせてくれる製品だ。この製品のポイントは、バッテリーが年単位で持つことだ。
Ring_Fetch_with_Dog

2020年発売予定の飼い犬向けのトラッカー「Ring Fetch」(photo by Amazon

 アマゾンは、Amazon Sidewalk のプロトコル仕様を公開して、サードパーティーによる製品開発を促す方針だという。IoT向デバイスでは、消費電力が低いことが要求される。頻繁に充電したり、電源に接続しなければならない製品は、それらを使う人間側のコストが高い。一度設置すれば、数年にわたってメンテナンスフリーで動くことが望ましい。そうした機器を実現できる通信技術。アマゾンは、Amazon Sidewalk でその世界のハブになろうとしているのかもしれない。  というわけで、Amazon Sidewalk がどういった技術なのか、少し見ていこう。

Amazon Sidewalk の背景にある、現状の技術の問題点

 Amazon Sidewalk については、『Introducing Amazon Sidewalk』というページがある。そこではこの技術が、既存の技術の隙間を縫うものだと解説されている。Bluetooth や Wi-Fi 接続は距離が短く、5G は複雑過ぎると書いてある。  Bluetooth は、1989年にスウェーデンのエリクソン社主導で提唱された近距離用無線通信規格だ。2.4GHzの周波数帯を使い、半径10メートル以内の機器と接続できる(参照:コトバンク)(より出力の大きな Class 1 では、到達距離は100mとなる)。  Wi-Fi は、アメリカ電気電子学会が標準化した高速無線LANの規格だ。2.4GHzの周波数帯を使い、屋内では数十メートルの到達距離となる。また、5GHzの周波数帯を使うものも出ている(参照:コトバンク)。Bluetooth も Wi-Fi も、100メートル以下の短い距離を想定した規格と言える。  対して 5G は、第5世代(5th Generation)無線移動通信技術の略称である。より高速な通信を目指しており、高周波数帯の電波の利用が必要になる。日本では、3.7GHz帯、4.5GHz帯と28GHz帯の電波を5G用に割り当てることになっている。1平方キロメートル当たり100万台の端末を同時接続でき、リアルタイム性の高い用途に向く低遅延を目指している(参照:ITmedia Mobile)。  こうした様々な要望や用途を実現するために、5G は高度な内容になっている。Introducing Amazon Sidewalk のページで「5G は複雑過ぎる」と書いてあったのも分かる。屋外使用を想定した飛距離を持ち、低電力で、シンプルな規格が欲しい。そう考えるのも当然だろう。  Amazon Sidewalk は、900MHzの周波数帯を使う。Bluetooth や Wi-Fi、5G に比べて低い周波数帯を利用する。その分、高速な通信は望めない。ただ、通信量が多くないのなら、そもそも高速である必要はない。その代わりに低い周波数ならば、同じ消費電力でより遠くまで電波を飛ばすことができる。Amazon Sidewalk を利用した場合、デバイスの接続範囲は1キロメートル以上になるそうだ。電池の持ちは、先述の通りである。  Amazon Sidewalk で使う900MHzは新しいものではなく、数10年前から利用されている。北米や欧州の無線呼び出し(日本のポケベルのこと。日本では250MHz帯を使用していた)はそのひとつだ。  この周波数帯は、日本ではプラチナバンドとして2012年の2月にソフトバンクに割り当てられた。それ以前は、同報機能やグループ通信機能等を有する自衛系移動通信システム、また、陸上運輸、防災行政無線、タクシー等の分野で使用されていた。この用途の通信は、900MHz帯の別の周波数に移行している(参照:総務省)。  アマゾンでは、この技術の実験を、従業員とその家族や友人でおこなった。Ring 照明機器700台を利用して、南カリフォルニアのロサンゼルス盆地の大部分をカバーしたという。大都市圏を700台の機器でカバーできるのは、かなりの効率だと言える。  また、Amazon Sidewalk は、セキュリティ面への対処もうたっている。Amazon Sidewalk 対応機器は、Amazon Sidewalk ネットワークを利用することで、セキュリティ更新プログラムにアクセスすることが可能になっているという。
次のページ
注目を集めるIoT向けの通信規格
1
2
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会