日米地位協定の闇。米軍基地の「日本人警備員」の知られざる実態

完食したピザの返金を求める米兵

トランプ米大統領

5月に来日したトランプ米大統領は横須賀米海軍基地を訪問。艦上での演説では日米同盟を重視する姿勢を強調した(写真/時事通信社)

 日本国内にいながら取締官でもないのに拳銃を携行する――日米地位協定が生んだこの超法規的存在が佐世保基地の事件でようやく白日の下に晒されたかっこうだが、全駐労長崎地区本部書記長の渡邊秀与氏はこう明かす。 「事件はいわば米軍側の『確信犯』。実は4月にも日本人警備員が銃を携行して基地外に出るように指示を受けていたんですが、このときは警備員が指示を固辞した。指示は米軍人の警備隊長の日本政府に対する挑発行為にほかなりません。昨年9月に警備隊長に就任した人物は、私の印象ではかなり日本人に対して差別意識を持っている。米軍のスタンダードを、日本の習慣や法律を無視して押しつけています。警備隊長による日本人警備隊員へのさまざまなパワハラ行為も報告されています」  米軍基地という空間では極めて特殊な光景が広がっている。基地従業員は常にその不条理と対峙している。サービス業に従事する基地従業員の女性はこう憤る。 「米兵のクレーマーは多く、横暴さには辟易しますね。完食したピザを『まずかった』と全額返金を要求してきたり、履きつぶして穴が開いた靴を『サイズが合わなかった』と返品する者もいた。『自分たちは一等国民だ』ぐらいに思ってるんじゃないですか」

植民地意識と不平等な地位協定が醸す差別

 米軍を監視する市民団体「リムピース」の頼和太郎氏は言う。 「駐留米国軍人は、個人レベルでも日本に対する植民地意識、不平等な地位協定から醸し出される優越感があるのでしょう。全国の駐留米兵が、基地の外で交通事故や罪を犯したにもかかわらず、日本の法律で裁かれずに帰国したという事例は枚挙にいとまがない」  米国とのいびつな同盟関係が、在日米軍基地を事実上の“治外法権”にしているとの声も根強い。沖縄国際大学大学院の前泊博盛教授はこう解説する。 「日本では米軍基地に日本の国内法が適用されないとこが問題の根源です。ドイツやイタリア、英国などNATO地位協定では米軍基地にも原則、国内法が適用されます。しかも基地内に管理者が常駐する国もあり、管理権として基地内の立ち入り権も確保されているんです。NATOのような多国間安保なら組合方式で加盟国が協力してアメリカと交渉できる。しかし、2国間同盟の日米安保はアメリカに文句が言えない。日本が主権国家でなくアメリカの属国といわれるゆえんです」  理不尽な労働を強いられるガードや基地従業員の姿は、米国に隷属する日本という国の悲しい現実を映し出している。
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もはや沖縄は「基地依存」ではない
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