「地域外の人との交わり」がないと地方は死ぬ。生き残りを賭けた飛騨市の取り組み

登壇者 地方創生の鍵になる取り組みとして、自治体から注目されているのが「関係人口」を増やすことだ。総務省によると「関係人口」とは、「移住した定住人口でもなく、観光に来た交流人口でもない、地域や地域の人々と多様に関わる者」と定義されるという。  都市部に若者が流れ、過疎化が急速に進む地域では、地域づくりの担い手が不足するという課題を抱えている。関係人口を増やせば、地方創生につながる可能性がある。  そんな中、産学官民で構成される「未来のコミュニティ研究室」が8月28日に「関係人口」と共創する地域のあり方について考えるシンポジウムを開催。有識者らによるトークセッションが行われ、地域に根付く文化や産業、暮らしの持続可能性について考察する機会となった。

飛騨市の関係人口の取り組みについて

 未来のコミュニティ研究室に属する岐阜県飛騨市は、企画部地域振興課内に関係人口係を今年4月から開設し、地域外の人との共創した地域づくりの未来や可能性についての取り組みを始めている。  飛騨市は面積の93%を森林が占め、木材建築の伝統技術や飛騨牛を始めとした食材などが有名である一方、全国の市町村に比べ倍のスピードで人口減少が進んでいるという。  人口が減っても、豊かな街を維持していきたい。過疎地ではあるものの、地域外の人との関わりが大切だと感じ、関係人口に注目している背景がある。  地域外の人との交わりをどう作っていくか。産学官民の連携で発足した未来のコミュニティ研究室からは「飛騨米の世界ブランド化」や「飛騨みやがわ考古民俗館の活用」、「飛騨市ファンクラブ」といった市内の魅力を発掘し、地域外へ発信するプロジェクトが生まれた。  地方自治体だけでなく、様々なステークホルダーを巻き込み、飛騨市に興味を持ったことを機に、関係人口として関わりを持ってもらう。このような流れを作ることができれば、飛騨市に定住しなくても、地域と外部の人との密な関係性を築くことに繋がるのではないだろうか。

受け入れ側は「関わりしろ」を増やす

指出一正さん

指出一正さん

 月刊「ソトコト」編集長であり、関係人口や地方創生の文脈から、多くの地方自治体との関わりや事例づくりの当事者として活動してきた指出一正氏。 「釣りやアウトドアの雑誌の編集をしていた20代の頃から、中山間地域に足を運んでいた。そのため、地方には東京にはないクールなものを持っていると感じていたが、ただ出向くだけで、地域との関わりはなかった。地域の解像度を上げ、地域を編集して自分と等身大の街と関わりを持ちたい。移住しなくても、地域に根ざしたい。そう思ってもらえる関係人口が、新しい都市と地方の関係性を生むハブになるだろう」(指出氏)  2012年くらいから関係人口という言葉が使われはじめ、ソトコトではいち早く関係人口の持つ役割について着目。  地方自治体とタッグを組み、高知県津野町の四万十川源流点校和歌山田辺市のたなコトアカデミー島根県のしまコトアカデミーなどを企画し、都市と地方とを行き来する関係人口の創出に力を注いできた。 「地域と寄り添う形で自分たちのやりたいことを実現したり、都市部にはない新しい価値観を発見したり。観光案内所から関係案内所としての役割を果たすことが、関係人口を作る第一歩。受け入れ側は関わりしろ(地域に関われる余白)を用意することで、受け入れしやすくすること」(指出氏)  地域が外部と関わるきっかけを作り、関係人口の若者が受け継いでさらに地域との関わり合いを深める。  関係人口が、主体的な行動をしていくようになれば、地域も活気づき、都市部との共創社会が生まれるだろう。
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関係人口をどう作っていくのが理想か?
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