部活顧問のハラスメントと学校側隠蔽工作が生んだ悲劇。学校部活に潜む構造的問題

「口頭注意」のみだった校長の指導

 自殺そのものは未然に防がなければなりませんが、起きてしまった以上は取り返しがつかないのですから、せめてそれはきちんと原因を究明し、再発防止のためにあらゆる手段を取るのが現在の我が国の教育現場です。そして情報を共有することが、再発防止の基本です。しかし、校長はあろうことか、遺族にこんな言葉をかけます。 「自殺という言い方をしてしまうと保護者会を開いて遺族が説明しなければならない。マスコミがたくさん押し寄せてきて、告別式がめちゃくちゃにされてしまう」  死因は部活顧問の体罰からの逃避行動と見られる自殺なのに、表向きは「不慮の事故」という処理をされてしまったのです。  確かに自殺者の遺族は、弔問に訪れた人たちからの、ある種の好奇の目に曝され、自殺が予見できなかったのか等の説明を求められることがあるので、公表することをためらいます。死者や遺族のプライバシーを守る必要もあると思います。しかし、葬儀については不慮の事故と言い張ることは学校側の配慮として理解できますが、本当の原因は部活顧問の体罰なのですから、当該中学校はもとより、さいたま市教育委員会や文部科学行政全体で共有すべき重大事件なのです。

再発防止など無理だと思っている教育委員会

 校長が体罰の事実を知っていたのに、それを放置したために生徒が自殺に追い込まれた。こういう問題が起こったとき、学校長や教育委員会など、責任ある立場の人たちは何とコメントするか。判で押したような言い訳が散見されます。みなさんも聞いたことがあるでしょう。 「今回のことは遺憾でなりません。二度と同様の問題が起こらないよう、指導を徹底します」 「関係者、遺族、学校の生徒のみなさんに、多大なご心配をおかけして申し訳ありませんでした」 「事実関係を調査した上で、十分な対処を検討します」  このような言葉を発すると、教育行政に関わる責任者のみなさんは、十分に反省したものと解されて、一件落着となり、この問題は処理されたことになります。あとはせいぜい自殺に追い込んだとされる顧問を停職・減給、校長には戒告・訓告処分です。なぜなら、生徒を直接殺した訳ではないからです。  実はこの3つの言葉の前に、隠れた言葉が入っているのです。この一文です。 「一連の対応に不手際はなかったと考えているが、」  そう、自殺に追い込んだ責任や、当該生徒に対して謝罪しているのではありません。 「一連の対応は正しかったけれど、自殺が起こった事実については残念です」 「一連の対応は正しかったけれど、関係者のみなさんに心配をかけたことについては謝罪します」 「一連の対応は正しかったけれど、事実関係については調べてみます」  そして第三者委員会を設置して、数か月かけて事件の風化を図るのです。  教育委員会は、たまに真剣に取り組むことはあっても、「教育現場は多かれ少なかれ事故は起こるし、一定の割合で自殺はある。たまたま心の弱い生徒に、教諭が強く言ってしまったことで事件になった。関係者はある程度反省した態度を見せて、再発防止の会議を何度か開けば世間は忘れる」と考えてしまうものです。  つまり、一連の「再発防止セレモニー」を行うと、校長の責任を問われるだけだし、地域全体としては「学校を運営していれば、ある程度の自殺は起こる。セレモニーを行っても一定数の自殺は防げない」と考えます。それなら費用のかかる第三者委員会とか、複数の教員のスケジュールを抑えた再発防止のための会議を煩わしいと考えれば、「不慮の事故」として上に報告する方が簡単なのです。
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どうすれば再発防止ができるのか
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