登戸の通り魔事件で取りざたされる「高齢ニート」は一括りで語るべきではない<競売事例から見える世界32>

事件が起きるとやたらと矛先を向けられる高齢ニートだが……

助長され兼ねない「高齢ニート」への偏見

 来日中だった米トランプ大統領が帰国の途につこうかという5月28日午前7時45分頃、神奈川県川崎市の登戸駅付近で痛ましい事件が発生した。  51歳の男が手にした包丁で付近の小学生ら19人を次々と襲い、小学6年生の女子児童と外務省勤務の男性が命を奪われるという凄惨な通り魔事件だ。  この通り魔事件では加害者である男の素性として「引きこもり状態」とする報道が日本中を駆け巡ることとなり、昨今の高齢ニート問題と相俟って彼らに対する憎悪や危険視、偏見といった意見が助長されている。  報じられる情報やイメージのみを頼りとした分析から、そのような感情・感覚を抱くことは仕方のない流れと言えるのかもしれないが、差し押さえ・不動産執行で多くの「高齢ニート」や「高齢引きこもり」を目の当たりにしていると、一元的な論調には疑問を禁じ得ない――。 「実際の高齢引きこもりは罪悪感から身動きが取れない」 「インターネットが高齢ニートに悪影響を与えている」 「高齢引きこもりはコミュニケーションロスから社会への憎悪を抱えている」  これらは何らかの識者から出されたコメントとしてインターネット上を浮遊するものの要約だが、極めて異質な一部分を切り取った見解とも言えるのではないだろうか。 「高齢ニート」「高齢引きこもり」に対する“主たる傾向”として扱ってしまうには、少々イビツさが否めない内容にも感じられる。

「高齢ニート」は想像以上に多く、それだけ千差万別

 まず念頭に置かなければならないのは、「高齢ニート」「高齢引きこもり」と言われる状況のものが、思い描く以上の家庭に存在しているということ。  それだけ人数が多いということは、現状に至るまでの理由も様々で、病気や発達障害にうつ症状、コミュニケーション障害やイジメ被害を原因とするものもいれば、親からのネグレスト、セルフネグレスト、逆に親からの溺愛や過保護からくるもの、他には人に語れる理由もとくになく流れ流され現状に至ったというものも少なくない。  家族との接し方も千差万別。  これまで出会った事例を分類すると、家族との円滑なコミュニケーションを取りながら暮らすものが大半となり、次いで家族との軋轢は抱えながらも家庭内には良き理解者を持つもの、そして何らかの看病を受けながら暮らすものが続く。  一般的にイメージの強い、家族とコミュニケーションを全く取らない事例や、暴力的な言動が目立つという、家族の身動きが困難なほどの“困った事例”は全体の極少数だ。  実際このような“困った事例”に出会うことももちろんあるのだが、比率として“困った事例”が大多数であれば、現状とは比較にならないほどの社会問題になっていたことだろう――。
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「コンビニに行くのは初めて」と言った40代ニート
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