米政府のファーウェイ制裁。スマホは発売延期、世界経済への影響も

中国にあるファーウェイの販売店(遼寧省瀋陽市)

中国にあるファーウェイの販売店(遼寧省瀋陽市)

 米政府は中国の華為技術(ファーウェイ)への制裁を発動した。米商務省傘下の産業安全保障局は2019年5月16日付けでファーウェイとその関係会社などをエンティティリストに追加しており、関係会社などには日本法人の華為技術日本(ファーウェイ・ジャパン)も含まれる。この制裁でどのような影響が想定できるのだろうか。

ファーウェイは米原産品の調達困難に

 産業安全保障局はファーウェイを米国の国家安全保障や外交政策の利益に反する事業体と判断し、エンティティリストに追加したという。エンティティリストに指定された事業体への特定の米国原産品の輸出には産業安全保障局が発行した許可証が必要となる。完全禁輸ではなく厳密には輸出許可制だが、原則として許可は下りず、輸出には第三国を通じた再輸出や国内移転まで含まれ、内容は取引禁止に近い。  規制対象となる特定の米国原産品は産業安全保障局が管轄する輸出管理規則(EAR)の対象品目である。輸出管理規則は軍事転用可能な民生品(デュアルユース品)の輸出管理が目的で、デュアルユースの材料や部品などの汎用品、ソフトウェア、特許を含む技術が規制対象となり、兵器などに転用できる多くの米国原産のハイテク製品が含まれる。  また、規制対象の製品や材料を組み込んだ製品において、価値ベースで規制対象のものが一定以上の割合を占める場合、それも規制対象となるため、米国企業のみならず第三国の企業の製品を含めて規制対象が広範囲に及ぶ可能性がある。第三国の企業が規制対象の製品を許可なしでエンティティリストに指定された事業体に輸出すれば、輸出者までも制裁対象となる恐れがあり、ファーウェイとハイテク製品を取引する場合は十分な注意が必要となる。  EARは米国の輸出管理法を根拠とし、国際法の属地主義の観点から米国法の過度な域外適用は国際法の原則に反すると考えられるが、制裁対象となれば金融機関などから取引を拒否される恐れがあり、第三国の企業でも米政府の措置を順守するしかないのが現状だ。すでにドイツの半導体メーカーがファーウェイへの製品の供給を中断した模様で、実際に第三国の企業が取引を中断する動きが出ている。また、取引内容が規制対象でなくとも、制裁対象の事業体とは関与を避ける企業も多く、ファーウェイは米国原産品の調達が困難になるほか、一部の取引先を失う可能性もある。

影響範囲は極めて大きくなりそう

 取引内容が規制対象かどうかの判定は複雑で、ファーウェイやその取引先も具体的な影響範囲は精査中と思われ、すぐに影響範囲を特定するのは困難だ。しかし、ファーウェイはブロードコム、グーグル、ルメンタム・ホールディングス、マイクロソフト、オラクル、クアルコム、ザイリンクスなど多くの米国企業から部品、ソフトウェア、技術を含むハイテク製品を調達しており、すでに一部企業がファーウェイとの取引を中断した。ファーウェイは携帯端末事業や通信設備事業を軸とするが、米国企業からのハイテク製品の調達が困難となれば、各事業とも製品の製造や販売に影響を与えるだろう。  ファーウェイは子会社の深圳市海思半導体(ハイシリコン)からも主要な半導体を調達するが、ハイシリコンの半導体は台湾積体電路製造(TSMC)が製造する。ハイシリコンの半導体が米国の技術などを含むならば規制対象になる可能性もあり、そうでなくともハイシリコン自体が制裁対象であるため、製造設備の調達などで米国企業と取引があるTSMCの判断次第では影響を受けても不思議ではない。  中国の中興通訊(ZTE)が制裁を受けて事業が停止したZTE事件は多少の参考にはなるだろう。ZTEは完全な取引禁止で、制裁の内容こそ多少は異なるが、両社は同業で規制対象品目も同じだ。ZTEは制裁を受けた結果、携帯端末事業と通信設備事業ともにほぼ中断に追い込まれた。  ファーウェイはZTEより財務力も技術力も優れており、制裁への耐性も強い。しかし、携帯端末や基地局は膨大な数の部品、ソフトウェア、技術の集合体で、構成要素を規制対象外のもので代替できる場合もあれば、そうでない場合もあるだろう。ZTEほどではないとしても影響は避けられなさそうだ。  なお、産業安全保障局は一時一般許可証を発行し、2019年5月20日から2019年8月19日までファーウェイとの保守関連など限定的な取引を認めた。2019年5月16日以前に契約もしくは一般に利用可能な通信設備、通信網、携帯端末の保守に必要なソフトウェアのアップデートやパッチを含むサポートやサービスに関する取引を許可したが、これはファーウェイへの救済措置ではなく、ファーウェイ製品に依存する顧客への救済措置である点に留意したい。
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