「離島を守らない」はずの奄美大島の自衛隊配備を、島民が「要望」する“事情”

佐藤正久外務副大臣の講演会

佐藤正久外務副大臣の講演会には多数の土建会社職員が“動員”されていた

“ヒゲの隊長”が挙げた怪気炎

「国を愛せない人間が世界平和を成し遂げるなんてあり得ない。国家あっての地元、地元あっての家族なのだから」 「自衛隊が国を守れるようにするのが主権者の責務。今後、国際的な緊張は高まることはあっても、和らぐごとは絶対にない」 「奄美大島は防衛の大事な拠点となる。自衛隊のインフラ基盤をどんどん整えていきたい」  4月27日。奄美市内の宴会場で、“ヒゲの隊長”こと佐藤正久外務副大臣からこのような発言が飛び出した。  地元の自民党議員の協力のもと「激変する東アジアの安全保障情勢」と冠して行われた講演会でのことだった。佐藤氏は約370人の聴衆を前に「自衛隊の災害時の活躍風景」や「離島防衛」を熱く語り、持論を展開した。  聴衆のおよそ8割は、地元土建会社の会社名が刺繍された作業服を身につけていた

「離島防衛」とは、「離島を防衛する」ということではない!?

 昨年12月、向こう5年間の防衛大綱・中期防衛力整備計画が発表された。以降「離島防衛」「島嶼防衛」として、南西諸島における陸上自衛隊配備拡張の必要性が堂々と語られることとなる。  ここで気をつけたいのは、この言葉が示すのは「“離島を拠点として”本土を防衛するための配備」という意味であり、「離島を防衛する」ということではないということだ。
陸自教範「野外令」

防衛省が開示した「離島の作戦」について書かれた項目

 防衛省が開示請求を受けて開示した「離島の作戦」の項目によると、市街地戦も想定される離島では、有事の際の住民避難・安全確保は地方公共団体の管掌となり、自衛隊は作戦行動に余力がある場合に“支援”のみを行うこととなるという(小西誠/編著『自衛隊の島嶼戦争』<社会批評社>より)。  つまり、自衛隊は島民を“率先して守ることはない”。彼らが作戦行動に勤しむ間、離島住民はほぼ捨て石となるのだ。災害の多い奄美大島ではこれまで、自衛隊が配備される安心感ばかりが、政治家や地元紙によって強調されてきた。 「台風や水害があっても自衛隊がいれば安心、助けてくれる」という島民の期待は高まるものの、上記の矛盾を指摘する声は皆無だ。
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