支配的で理不尽なモラ夫の振る舞いに、「私が悪い」と自責する妻たち<モラ夫バスターな日々10>

「私が悪いから怒られるんだ」――。モラ夫を持つ妻たちが陥りがちな「正常性バイアス」の罠

弁護士・大貫憲介の「モラ夫バスターな日々」<10>

 日本男性には、つくづくモラ夫が多い。しかし、モラ被害に遭っていても、逃げない妻は多い。  ある妻(30代後半)は、夫から、いつも怒鳴られることに悩み、相談に来た。「夫婦喧嘩」を隠し録音しているとのことで、相談前日のものを聞かせて貰った。法律相談に来るため、友達と約束したと嘘をついて、就学前の子の面倒をお願いしたところ、夫が突然切れて、怒鳴り始めた。 「なんで、あんたは、いつも、そうなの?」 「突然、それ言うの?」 「で、俺に子守りしろって、言うの?」 「そんな勝手なこと!」 と男性が金切り声で一方的に怒鳴りまくっていた。  私は、彼はモラ夫だね、と言った。  相談者は、「いえ、私も悪い。突然、子守を頼んだので」と言う。切れまくってるし相当なモラ夫ですよ、と言うと、「いえ、私も言い返してますし」と言う。しかし、録音では殆ど言い返していない。  相談者は、精神が疲弊し、壊れ始めているように見えた。私は、逃げたほうがいいとアドバイスした。  役所の女性センターでも、そう言われたが、逃げられないという。そして、「私にも悪いところがあるし、子どもも小さいので、もう少し頑張ってみます」と言い残して、帰っていった。

被害妻たちに働く「正常化バイアス」

 人は、危険や害悪を知らせる情報を過小評価したり、無視したりする。正常化バイアスと呼ばれる。  先ほどの相談者は、精神的に壊れ始めていた。怒鳴りまくられて、憔悴しきっており、毎日が辛いと嘆いていた。それでも、まだ頑張るという。  離婚の法律相談に来ても、結局、決断が付かず、逃げない妻たちは決して少なくない。どこにも相談に行かない方たちも含めると、逃げない妻たちは、相当な数に上るだろう。  逃げない理由は、いろいろとある。 ①モラ被害に気付いていない、或いは過小評価している。 ②夫が怖くて行動できない。 ③経済的自立が困難。 ④どんな父でも子に必要と考えている。 ⑤自らの結婚を「失敗」にしたくない。良くなる期待を捨てられない。 ⑥周囲の理解が得られない。「愛は困難を超える」と信じている。 ⑦囲い込まれていて動けない。 ⑧既に心身症/ウツで考えがまとまらない
次のページ
モラ夫は支配者でいたいがため、妻に落ち度がなくてもキレる
1
2
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会