極論主義とネット世論操作が選挙のたびに民主主義を壊す。このままでは5年以内に世界の民主主義は危機を迎える

似非民主主義イメージ

Image by Amir Korenfeld via Pixabay

 前々回の記事で、2018年のラテンアメリカ3カ国の選挙で起こったことを紹介した。ネット世論操作に対してさまざまな組織(政府、SNS事業者、ファクトチェック組織、市民社会など)が対抗したが、結果として極論主義の台頭を許すことになった。  しかしラテンアメリカの選挙で起きたことはほんの一例に過ぎない。ネット世論操作が世界中の選挙で極論主義に勝利をもたらしている。

日本にも見られ始める「非自由主義的民主主義」の兆候

 日本の選挙でもフェイクニュースが取り沙汰されるようになり他人事ではなくなった。個人的にはまだ”似非民主主義(非自由主義的民主主義)”(*形式上民主主義の形を取っているが、実際にはそうではなく大幅に個人の自由や権利が制限されている社会及び政治体制。illiberal democracyやilliberalismと呼ばれる。参照記事として「人は簡単にファシズムに転ぶ。拡散装置による世論誘導の果てにある『illiberalism(似非民主主義)』社会」–HBOL)と呼ばれるほど悪化していないと信じたいが、起きていることを見るとそうもいかない。たとえば日本政府は国際社会が非難しているミャンマーのロヒンギャ問題を無視し、虐待を容認しているミャンマー政府に資金まで提供した。  この外交姿勢は「無価値観外交」と呼ばれ、民主主義の基本となる自由や人権を無視したものだ(参照:『日本政府が「ロヒンギャ難民問題」に対して展開する人権軽視の外交』–HBOL)。The Diplomat誌はこれを恥ずべき行為『Japan’s Shameful Myanmar Embrace』(2018年9月18日)と批判した。

エセ民主主義国家に労働者を派遣して年間560億円を稼ぐ北朝鮮

 さらに北朝鮮のような国家がエセ民主主義国家から多額の資金を得ていることも日本への脅威だ。CNNの『Statues and ammunition: North Korea’s Africa connections』(2017年12月15日)によれば、アフリカの多くの国が北朝鮮と契約を結んでいるという。  また、2019年1月19日にはアルジャジーラは『North Korea’s Secret Money』という特集で、北朝鮮が自由主義国の手のおよばない国々に国民を派遣し、給与を受けとっている実態を明らかにしている。中心となっている組織は「office39」と呼ばれ推定年間5億ドルを北朝鮮にもたらしているという。日本円にしたら約560億円だ。この20年で急速に規模が拡大したと言われている。エセ民主主義国家の経済規模が急激に拡大したためだ。北朝鮮に限らず、さまざまな国家やテロ組織が同様の方法で資金を手に入れられる時代に突入しつつある。  日本は国内外でエセ民主主義と民主主義の岐路に立たされている。崩壊を防ぐために残された時間はあまりない。
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危機に瀕する「民主主義」
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