中国大連勾留所の厳しい現実。緩くなった法解釈が30年前に回帰なのか

大連市勾留所

敷地奥にある大連市勾留所

 2018年、中国での日本人スパイ罪拘束は0人かと思われていたが、先日、伊藤忠商事の社員が昨年2月からスパイ容疑で拘束されていることが明らかになった。すでに起訴されているとのことなのでスパイ罪確定方向で進んでいる。(参照:FNN News)  伊藤忠商事は、民主党政権時に中国大使を務めた丹羽宇一郎氏の出身母体であるから中国関係者へ大きな衝撃を与えている。

地図サイトでも白抜きの大連勾留所

 以前、お伝えした通り、現在、中国ではスパイ容疑で拘束された人間は国家安全局が担当し、それ以外の案件で拘束された人間は公安が担当する。  筆者は、公安案件で中国大連で勾留される日本人へ2008年、13年、16年と面会してきたが、16年はあらゆる面で厳しくなったと痛感している。  最初の2008年は、その2年後の2010年4月、中国で初めて日本人死刑囚となった男性が収監されていた拘置施設へも訪れたことがある。その施設は、周辺に何もない広大な敷地にポツーンとあり、タクシーも嫌がるような場所だった。  現在、スパイ容疑で拘束が続くカナダ人のマイケル・スパバ氏は国家安全局の管轄だ。さらに、ファーウェイ問題の報復処置と見られる麻薬密輸罪のカナダ人には、先月、異例の大連市高級人民法院(高裁)から差し戻された中級人民法院(地裁)で死刑判決が下っている。この人物は麻薬なので公安案件となる。  大連市勾留所は、大連空港と空港北部で日本企業も多く進出する経済開発区との中間付近の丘の上にある。  検索エンジン「百度」の地図を見ても白地図状態。中国では、軍事施設など重要施設は真っ白で名称も表示されない。それでも、グーグルストリートビューのようなパノラマ写真で粘り強く探していくと勾留所の入り口を見つけることができる。  大連の公安案件の外国人は原則、大連市勾留所で勾留される。オーバーステイ、不法労働、回売春など罰金や強制送還など刑罰が法律で確定している外国人が勾留されているようだ。これら以外で殺人などの重犯罪者は、早すぎる中国の裁判を受けて別の拘置所へ移送される。  一方、中国人はというと、交通事故など一般的な公安案件で勾留される人間よりも麻薬常習者などジャンキーが多く勾留されている。  大連市勾留所と同じ敷地内に薬物中毒者の治療を目的とする大連市公安局禁毒支隊が併設されているからだ。敷地への入り口には勾留所の看板はなく、大連市公安局禁毒支隊の大きな案内しかしかない。  意外に思われるかもしれないが、中国はいくら重度であっても薬物使用者の罪は軽い。その理由は彼らは被害者で、治療対象だと位置付けているからだ。他方、厳罰にすべきは、販売や拡散に寄与するような密売人や運び屋でそれらの罪が圧倒的に重い。50グラム以上で最高刑が死刑となる。  そのため、日本人など外国人勾留者は、同じ施設で中国人薬物ジャンキーたちと一緒に生活することになるのだ。実のところ、これが何よりも辛いと経験者は語る。
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日中はジャンキーと大部屋で一緒に
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