勤労統計問題、日雇い労働者の除外の影響をなぜ政府は見ようとしないのか

日雇い除外は報道発表資料で明示されず

 2つ目の「不都合な事実」は、厚生労働省が毎月の勤労統計の結果を公表するにあたって、2018年1月分から調査対象から日雇い労働者を除外したことを明示してこなかったことだ。  定義の変更があれば、それは当然、明示されるべきことだ。にもかかわらず、それが明示されていないのだ。あまりにも不自然だ。  具体的に見てみよう。毎月勤労統計の報道発表資料にあたる「概況」を、定義変更がなされる前の2017年12月分の確報(2018年2月23日公表)と、2018年1月分の確報(2018年4月6日公表)について、見比べてみる。  「利用上の注意」を見ると、1月分確報では、30人以上の抽出について、総入れ替えから部分入れ替えに変更したことが明記されている。にもかかわらず、日雇い労働者を調査対象から除外したことについては、触れられていないのだ(なお、遡及改訂を行わなくなったことについても触れられていない。遡及改訂を行わなくなったことについては、2018年4月20日発表の2月分確報になってようやく言及されている)。  「用語の説明」には「常用労働者」と「パートタイム労働者」の説明があるが、ここでも「常用労働者」の定義から日雇い労働者を除外したことが明記されていない。通常であれば、調査対象に変更があれば、当然、それは明記される。明記されていないのは、あまりにも不自然だ。  2017年12月分の確報と2018年1月分の確報の「用語の説明」を見比べることによってはじめて、常用労働者の定義が変更されて日雇い労働者が調査対象から外れたことがわかる。しかし普通は、見比べることはしないだろう。 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ <2017年12月分確報> 1)常用労働者とは、 (1)期間を定めずに、又は1か月を超える期間を定めて雇われている者 (2)日々または1か月以内の期間を定めて雇われている者のうち、調査期間の前2か月間にそれぞれ18日以上雇われている者 のいずれかに該当する者をいう。 2)パートタイム労働者とは、常用労働者のうち、 (1)1日の所定労働時間が一般の労働者よりも短い者 (2)1日の所定労働時間が一般の労働者と同じで1週の所定労働日数が一般の労働者よりも少ない者 のいずれかに該当する者をいう。 <2018年1月分確報> 1)常用労働者とは、 (1)期間を定めずに雇われている者 (2)1か月以上の期間を定めて雇われている者 のいずれかに該当する者をいう。 2)パートタイム労働者とは、常用労働者のうち、 (1)1日の所定労働時間が一般の労働者よりも短い者 (2)1日の所定労働時間が一般の労働者と同じで1週の所定労働日数が一般の労働者よりも少ない者 のいずれかに該当する者をいう。 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※  上記の「パートタイム労働者」の定義には、日雇い労働者は含まれないことに注意してほしい。「パートタイム労働者」は「常用労働者のうち」とあるように、常用労働者の定義に含まれる者だけが調査対象となっている。そして、毎月勤労統計の「利用上の注意」の冒頭にあるように、毎月勤労統計の統計数値は、「常用労働者(パートタイム労働者を含む。)に関するもの」なのだ。  また、上述の通り、厚生労働省は毎月勤労統計のページ「毎月勤労統計調査における平成30年1月分調査からの常用労働者の定義の変更及び背景について」(2018年4月20日)という文書を公表しており、そこに定義変更については書かれているが、この文書の発表は4月20日であり、これは2018年2月分の確報の公表時だ。あまりにも遅いし、ここに書けばそれでいい、というものではない。そしてこの文書も、「常用労働者の定義の変更」については記されているが、それによって毎月勤労統計の調査対象から日雇い労働者が外れたことが、わかりやすく説明されていない。  さらに言えば、毎月勤労統計のページから「調査票」の項目をクリックすると調査票の説明のページに飛ぶが、そこでは毎月勤労統計の調査票について、このような記載がある。 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※調査内容は平成5年以降変わっていないが、平成13年に調査票に記載している省名を「労働省」から「厚生労働省」に変更、平成26年に「政府統計の統一ロゴタイプ」を付与する変更、平成30年に「常用労働者」の定義変更を行った。 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※  調査票には当然、常用労働者とは何かの定義が記されている。そしてその記載は、2018年1月分の調査票から変更されている。にもかかわらず、その変更が「平成30年に『常用労働者』の定義変更を行った」の一言で済まされている。省名は「労働省」から「厚生労働省」に変更したことが具体的に記されているのに、「常用労働者」の定義は、どのような定義からどのような定義に変更されたか、具体的に記されていない。「毎月勤労統計調査における平成30年1月分調査からの常用労働者の定義の変更及び背景について」(2018年4月20日)へのリンクが貼られているわけでもない。これも不自然だ。  つまり、2018年1月分以降、毎月勤労統計の調査対象から日雇い労働者が除外されたことは、結果の数値の公表にあたって、極力隠されたのだ。私はこれを「組織的隠ぺい」と考える。後で述べるように、厚生労働省が行った賃金の上振れの要因分析でも日雇い労働者の除外については触れられていない。本来は、あり得ないことだ。
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懸念の声は出ていたのにそれを無視した政府
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