ロリータ東大生「妄想は大きな原動力になる!」

 ロリータファッションに身を包んだ東大大学院生・大石蘭さんが描いたコミックエッセイ『妄想娘、東大をめざす』がジワジワと注目されている。一見、サラリーマンには関係ないように思える同書だが、読んでみると意外に共感できたり、参考になったり、熱くなったりするところも。先入観を取っ払って、一度手に取ってみてはどうだろう。今回はインタビューの【後編】をお届けする。 ⇒【中編】「ロリータ東大生の“モチベーションを高める”時間管理術」
大石蘭さん

大石蘭さん

――本書は女のコの成長物語としてだけでなく、目標を設定し、それに到達するためにはどうすればいいのか……という実践録として読むこともできそうです。 大石:表紙がかわいいから、大人の男性だと手に取りづらいかもしれません。が、目を通してもらえると、けっこう共感していただけるところもあるんじゃないかなと思います。この本は、ものすごく簡単に言ってしまうと「愚直に取り組んで、ぶ厚い壁を破る」という話なので。ただまあ、その原動力になっているのが、私の場合“妄想”だったりするわけですけど(笑)。 ――タイトルにも「妄想娘」とありますね。 大石:結局、私を突き動かしていたのは、大好きなロリータファッションとか大好きな音楽が生み出されて、素敵なものに溢れている東京への強い憧れ。そして「東京で素敵なものに囲まれて暮らす自分」という妄想だけなんです。  私には、東大に入ればスゴイと思ってもらえるとか、東大に入るのが最大の目標とか、そういう意識はぜんぜんありませんでした。とにかく「自分を変えたい」「自分のなりたい自分になりたい」と強く願っていて、そのために何ができるかを考え、自分を試すひとつの手段として選択したのが東大受験、みたいな感覚なんですよ。東大受験はたまたま選んだ手段であって、よくある受験本のように合格したからエラい、みたいな話で落ち着いてしまうのは、なにか違う気がしてしまう。「いまのままじゃイヤだ」「違う自分になりたい」という思いをかなえるため、どんな妄想をしたか。その妄想を現実にするためにどうしたか、という本なので。 ――妄想力のすすめ、みたいなことでしょうか。 大石:かもしれません。夢はなくても妄想はある、という人はたくさんいると思うんです。唐突に「夢はなに?」と聞かれて、「夢かぁ……なんだろう」と考え込んでしまう人は少なくないはず。「特にない」という人もいるでしょう。でも、妄想は誰でもしていると思うんですよ。  読んでくれた方の感想にもあったのですが、「いまの自分にも、過去の自分にも納得していなくて、なにかやらなきゃと思っている。とはいえ、明確に『これが夢です』と言えるような自信もない」みたいな葛藤を抱いている人はけっこう多いと思うし、そういう人に、この本が届いてくれたら嬉しいですよね。 ――夢なんかなくてもいい。妄想があるじゃないか、と。 大石:そうです。「夢はなに?」と尋ねても、現実的なことしか言わない小学生が多い……なんて話がありますよね。ただ、大人だって夢を語らないし、安定志向が強いじゃないですか。  大人は軽々しく「夢に向かって進め」みたいに言うけど、結局は現実的な選択肢をいくつか示して、そのなかから選ばせるようなことをしている。そして、そこで上手に選べなかった子どもは、はじかれてしまうようなところがあると思うんです。私にも経験がありますけど、「夢は?」と先生に問われても、結局、求められているのは「どの大学に行って、どういう進路に進みたい」という回答なんです。でも、そんなこと中学生くらいではわからなくても仕方ないじゃないですか。で、「自分に夢なんてない。夢を持てない自分はきっとダメな人間なんだ」なんて思い悩んでしまったり。これは、大人も然りですよ。「夢なんて持っている場合じゃないし」と諦めてしまっている。 ――夢が、なんだか重いものになっている、と。 大石:そういう側面はあると思います。その点、妄想は本当に自由ですからね。「アイドルの誰々と結婚したい」なんてレベルから、もう何でもアリ(笑)。東京で好きなお洋服をたくさん買って、好きなモノだけに囲まれて暮らしたいとか、モデルみたいなルックスになりたいとか、そういう妄想をふくらませるだけで力が出たりするもの。どんなにしょーもない妄想でも、大きな原動力になる。妄想の力をナメちゃいけないと思います。 <取材・文/漆原直行> 【大石蘭】 1990年福岡県生まれ。東京大学教養学部卒。現在、東京大学大学院修士過程(比較文学比較文化を専攻)在学中。雑誌『Spoon.』に掲載された自伝的短編「そんなお洋服ばっかり着ていると、バカに見えるよ」が注目を集め、同誌や『PHP Special』『mille』などでエッセイ、イラスト、コラム、レビューを執筆するように。2014年3月、初めての著書となる『妄想娘、東大をめざす』を上梓。少女文化と原宿、スイーツをこよなく愛する。憧れの女性は椎名林檎、蜷川実花、よしもとばなな。いつか彼女たちに逢いたいと妄想しつつ奮闘中。
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