裁量労働制実態調査の調査票案改定提案に厚労省担当者が繰り出した「ご飯論法」

 先日、当サイトでも報じた裁量労働制の実態調査の調査票案に重大な瑕疵が発見されたことを報じた。(参照:裁量労働制実態調査、やはり「不都合なことは聞かない」設計に! 調査票改定案を緊急提言)  これを受けて25日夕方、法政大学教授の上西充子氏と立憲民主党の長妻昭議員、国民民主党の山井和則議員が厚生労働省の労働条件政策課長および課長補佐に緊急でヒアリングを行い、調査票案の改定案を提案した。  緊急ヒアリングの席上、上西教授は、現行の調査票案に含まれる問題点を明らかにして、その原因と修正について厚生労働省の労働条件政策課長および課長補佐に問い質した。

裁量労働制適用労働者用調査票にかかる問題点

 問題の焦点となったのは、裁量労働制適用労働者用調査票(第4回検討会資料2-3)である。  上西教授が指摘したのは以下の項目。 ●問13において、(1)でまず苦情処理措置を知っているかを尋ね、知っている者のみに2018年度中に苦情を申し出たことがあるかを(2)で尋ね、苦情を申し出たことがある者のみに苦情の内容を(3)で尋ねているが、これでは(3)に回答する者が極端に少なくなる。  年度を限定せずに苦情を申し出たことがあるかを問うたJILPTの先行調査(調査シリーズNo.125)でさえ、苦情を申し出たことがある者は3.1%に過ぎない(報告書p.246)。年度を限定すればさらに対象者は少なくなり、このような聞き方は不適切である。  問13の(3)の項目は、別の設問に移し、それとは独立して、苦情処理措置の認知や利用の有無を尋ねるべき。そうして初めて、苦情に値する実態がありながらも苦情処理が利用できない実態が明らかになる。現在の調査設計では、苦情処理を申し出ないがそれに値する実態があることが埋もれてしまう。
第4回検討会 資料2-3より

第4回検討会 資料2-3より

●問17において、満足度を5段階で尋ねた上で、満足の者にはその理由を、不満の者にはその理由を問う形になっているが、裁量労働制のメリット(制度趣旨にかなった実態)とデメリット(制度趣旨に反する実態)を問う内容であり、どちらもすべての回答者に尋ねるべき内容である。これらの設問と満足度を問う設問は別の設問にすべき。  現状の設計では、「仕事に裁量がない」「業務量が過大」「労働時間が長い」などの問題のある実態が回答者にどの程度みられるのかが把握できない。「時間にとらわれず柔軟に働くことで、ワークライフバランスが確保できる」といった制度趣旨にかなった実態についても、回答者にどの程度みられるのかが把握できない。  また、満足度について、「どちらとも言えない」という選択肢を設けているのも不適切である。「どちらとも言えない」に回答が大きく偏ることが想定されるが、「どちらとも言えない」と回答した者は、メリット(制度趣旨にかなった実態)を問う項目についても、デメリット(制度趣旨に反する実態)を問う項目についても、回答できない調査設計になっているのだ。
第4回検討会 資料2-3より

第4回検討会 資料2-3より

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修正の提案に対しての厚労省担当者の回答は?
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