こんな企業研修はうまくいかない! 研修主催者がありがちな落とし穴

 筆者は身につけたいスキルを反復演習し、その場で行動に移すことができる、すぐに話法で繰り出せる演習を、さまざまな企業で実施している。それが本連載のタイトルにもなっている分解スキル反復演習型能力開発プログラムだ。

研修グループの参加者にも多様性を持たせる

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 演習の実施に向けて打ち合わせをしていると、各社の研修主催部門が共通に持っている、「研修とはこうあるべきだ」という定説に接することが多い。そして、実はその定説は、必ずしも研修成果を上げることに役立っていないことがある。それどころか逆に研修効果を下げてしまっていることさえあるのだ。  もっとも多く接する定説は、「研修は同じ階層、職種の人を対象に実施した方が成果は上がる」というものだ。たしかに、知識を得るための研修であれば、同じ階層や職種であればあるほど、提供する知識の的を絞れるため、その効果は高まる。行動や話法の基本形を覚える場合も、事例や話法の的を絞れるので、効率よく研修できると言えるだろう。  しかし、実践に近い場面で行動や話法を繰り出す演習をして、その場で技術を身につけようとする場合はどうだろうか? 職場で日常に対応する相手は、同じ階層だけ、自部門だけという場合はほとんどない。さまざまな階層や職種の人が入り乱れているなかで、スキルを発揮することが普通だ。つまり、さまざまな階層や職種の人が混在して研修を行うほうが、より実践に近いということになる。  また、繰り出す行動例や話法例も、さまざまな階層や職種の人が混在しているほうが多様になり、参考になる事例に接する機会も増える。その観点からも、研修を行うときは「混在型」がお勧めだ。もちろん、井の中の蛙なので、他部門と混在しての研修となると、躊躇してしまうということがあらかじめわかっている場合には、無理に混在させることはない。まずは、自部門だけで実施し、慣れてきたら、他部門と混在した研修に参加するようにすればよい。

グループや席順を押しつけると研修効果は低下

 研修における座席やグループは、職位、職務、経歴、性格、性別などをふまえて、ばらつくように決めておくべきという定説もある。また、ロールプレイングする相手や演習相手を、あらかじめ誰と組むか決めておくというケースもあるだろう。  しかし、私はこういった方法をとらない。あらかじめ座席やグループを決めることは一切しないで、会場に入った順に、座りたい席に座っていただく方式をとっている。この方法を意外に感じる人は多い。「自由席にしたら、みんなが後ろに座りたがるのではないか」「仲よし同士で一緒に座って、私語ばかりで研修にならないのではないか」という声が届く。それらの意見は、いわば性悪説に立っているように思える。  私の考えは、会場前方の席に座りたければ前に座ればいいし、後ろの席に座りたければそれでもいいと思っている。仲よし同士が近い席に座るもよし、同じ部門同士で同じグループになるのもよし。あえて、初対面の人とグループになりたければそれでもいいし、すべて本人の意思にお任せする。ロールプレイングの相手や演習相手も、自分が実施したい人と組んでもらい、「誰と誰とで組んでください」というような指示は一切しない。  つまり、自分にとってもっとも心地よく、研修をやりやすい席に座り、ロールプレイングや演習を実施しやすい相手と組んでもらう。参加者ひとりひとりに、それを委ねるということだ。20年来、実践に役立つ演習を実施してきたが、席にしても演習相手にしても、参加者に選択を委ねたほうが、演習効果は上がることが確認されている。
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参加者が心地よく感じる環境づくりが必要
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