「丘」「富士」「光」「虹」……水害多発地域にありがちな誤魔化しの地名<競売事例から見える世界17>

洪水多発地域

洪水多発地域に建つ物件の説明は、十分になされない場合が多い

「八木蛇落地悪谷」  これは2014年8月に発生した広島豪雨災害被災地の一部地域を指す旧地名として、当時「かつての地名が過去の水害発生を示していたのでは」とメディアでも大きく報じられた名称だ。  この旧地名は不動産売買を目的とした宅地開発の際、徐々に柔らかい言葉へと変貌、さらには一部割愛という形で現在の地名に落ち着いたとされているが、もちろん細かい経緯を記した資料などは残されておらず、現状で確認できる資料や古くから住む生き証人の言葉を頼りに憶測を巡らせるしかない。  実際にこのようなイメージ問題からの地名変更は全国各地で続々と行われており、今や地名の指す言葉がその土地の特徴や由来を示すものではなく、“商品名での印象操作”にも似たチグハグなものとなりつつある。  差し押さえ・不動産執行の現場でもこのような新興住宅地に足を踏み入れることは少なくない。  よく見かけるのは、付近に全く高低差などなく、どこと比べても地表標高が高くなっている部分などない地帯に「丘」「富士」「台」、といったイメージの良い言葉を使う事例。  他にも、なんとなく雰囲気の明るい「光」「虹」といった言葉用いて、沼地を埋め立てた住宅地を売っていたケースもあった。  このような流れで今回ご紹介するのは、元々池だった土地を新興住宅地として開発し、売り出していた物件。  この日は、数日前まで付近を大雨が襲い一帯が浸水被害に見舞われたという中、ようやく訪れた快晴の一日だった。  幸い水は既に引いていたが、街全体に残る泥の流れが刻んだ痕跡を見る限り、床下浸水被害が広く発生していることが伺える。  この手の土地にありがちなのが、既に建物の基礎が高めに取られているというもの。  この基礎の高さが「幸い」し当該物件も床上浸水を逃れてはいるが、元々浸水被害を想定しての建造だと考えると「幸い」とも言い難い。  債務者は後期高齢者で、債務者の息子夫婦が育児を放棄した孫との同居。日々傾く自身の事業を立て直そうと、金を借りつつ事業内容を見直すものの結局は借金が膨らむばかりで今回の差し押さえに至った。
次のページ
保証期間が過ぎてからの水害発生
1
2
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会