韓国・文在寅大統領がフェイクニュース対策への強硬な姿勢を見せる2つの理由

photo by pixel2013 via pixabay(CC0 Public Domain)

フェイクニュースへの規制を強化は、言論統制か?

 韓国政府は10月8日に予定していた「フェイクニュース根絶のための政府対策」の発表を延期したが、延期の理由は、閣議に出席していた文在寅(ムン・ジェイン)大統領が「更なる議論が必要」と判断したためだ。  文大統領はすでに決定されていた対策の報告をきいた後に、「フェイクニュースは、もはや保護されるべき人権の領域ではない。その対策では不十分だ」と、より強力な対策を指示したとみられる。  これに対し野党側が激しく反発。フェイクニュースの規制を強化することは、「言論統制」ではないのか、と。「表現の自由」、「報道の自由」を叫ぶ野党と、強硬な姿勢を見せる韓国政府・与党との間で、対立が続いている。  韓国でなぜ今、「フェイクニュース狩り」が強力に推進されるのか。

極右カルトのフェイクニュースが作用した2012年の朴槿恵勝利

 そもそも、文大統領がフェイクニュースを警戒するのには、理由がある。  先月末、極右キリスト団体である「エスダー祈祷運動」(以下:エスダー)が2012年に行われた大統領選挙において、文大統領に関するフェイクニュースを量産していたことが明らかになったのだ。2012年に行われた選挙では、当時与党候補者であった朴槿恵氏(パク・クネ)が、野党候補者であった文大統領に108万票差をつけて当選している。接戦が予測された大統領選での大差での敗北。そこにフェイクニュースの影響が、全くなかったとは言い難い。  また、文大統領のフェイクニュースを流布させた一方で、「エスダー」が朴槿恵の外郭団体に活動を随時報告し、「朴槿恵当選のためのインターネット要員」という名目で、年間運営経費約5億5千万ウォンを要請していた事実も判明した。  フェイクニュース拡散によって、不法選挙運動にまで発展していた事実は、今後も波紋を広げそうだ。  韓国メディア「ハンギョレ新聞」が入手した資料によると、エスダーでは、韓国と北朝鮮の融和ムードを当初から警戒し、それを歓迎する者を「従北勢力」として阻止しようと企画していた。2012年の大統領選挙を前に、エスダーは朴槿恵当選に向けた「不法選挙運動」へと、積極的に乗り出していく。  フェイスブックやツイッターなどSNSをはじめ、NAVERなどの大手ポータルサイトでも、朴槿恵候補への友好世論を説き、文大統領を誹謗することに注力した。さらには、オンラインを越え、京畿道水原(スウォン)にある宗教施設において「北朝鮮救援の名の下支配し、韓国統一とキリスト教の布教を成しえる、韓国大統領を選出しよう」とスローガンを掲げ、「断食会」を実施。当時、エスダーの関係者として参加していた者は、「キリスト教言語でオブラートに包まれていたが、当時の行事内容やメッセージは、朴槿恵候補に投票せよという話だった」と話している。(参照:DAUM)  不正選挙運動にまで発展した脅威ともいえるフェイクニュースが、今後も文政権を脅かす恐れは十分にある。手を打っておくに越したことはない。
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フェイクニュース規制、もう一つの狙い
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