4回目の南北首脳会談。進む米朝・南北朝鮮関係の一方で厳しい選択を迫られる日本

南北間における今回の首脳会談の意義

 国際的には、北朝鮮の非核化が最大の焦点であった、今回の南北首脳会談であるが、韓国・北朝鮮の両国にとっては、より一層大きな意義を持つ会談であった。  今回の会談日程におけるいくつかの象徴的なシーンを挙げてみる。 1)平壌市民15万人の前での文在寅大統領の演説 2)両首脳による白頭山訪問 3)金正恩委員長のソウル訪問意思の表明 1)平壌市民15万人の前での文在寅大統領の演説  会談日程の2日目。両国首脳が共同宣言にサインをしたその夜、平壌市ルンラ島(平壌市内を流れる大同江の中州の島)にある5.1競技場では、15万人の平壌市民によるマスゲーム「輝かしい祖国」が上演され、会談を終えた文在寅大統領ほか、韓国の随行団一同がこれを観覧した。  このマスゲームは、北朝鮮の創建70周年に際して上演されているもので、マスゲーム終了後、金委員長がマイクの前に立ち、文大統領を平壌市民に紹介し、挨拶を促した。文大統領は、15万人に及ぶ平壌市民らの前で、「我々は5000年を共に生き、70年を分かれて暮らした」としながら、互いに手を取り合い、一つになっていく重要性を力強く訴えた。この演説は平壌市民らから熱烈な歓迎を受け、韓国でも今回の南北首脳会談における最大の名場面とされた。  現職の韓国大統領が北朝鮮市民の前で演説する事は異例中の異例。平壌市民らは、初めて韓国の大統領の肉声を聞いた。これは、南北首脳会談におけるパフォーマンス以上の意味を持つ。まさに歴史的なシーンであった。 2)両首脳による白頭山訪問  南北首脳会談3日目の日程について、当初、韓国の青瓦台(大統領府)は、午前中に大統領はソウルに戻ると事前に発表していた。ただ、イム・ジョンソク秘書室長は「両首脳による親交日程が組み込まれるかも知れない」と言葉を濁してもいた。  その「親交日程」こそが、両首脳による白頭山への訪問である。  白頭山(ペットゥサン、中国側の呼称は長白山)は、朝鮮半島で一番高い山(標高2744m)である。頂上には天池(チョンジ)と呼ばれる湖があり、中国と北朝鮮の国境となっている鴨緑江・豆満江はこの白頭山が始点となっている。  4月の南北首脳会談時に、登山が趣味の文大統領が金委員長に、大統領職を降りたときには白頭山行きのチケットをプレゼントしてほしいと冗談交じりに言ったことを、金委員長が早速実現させた形だ。  韓国の大統領の白頭山訪問は、南北の両国にとって大きな意味がある。  韓国側にとっては、朝鮮半島の分断によって「行きたくても行けない山」であった白頭山に大統領が登る事が、朝鮮半島統一の象徴的なシーンになる。白頭山近郊の三池渕(サムジヨン)空港から、ソウルに直帰した事実も、今後、南北交流が盛んになっていくことを想定し、白頭山訪問事業が、統一に向けた大きな事業になる可能性が高い。  北朝鮮側から見れば、また意味が変わる。  白頭山は、朝鮮半島を象徴する山の一つであると同時に、北朝鮮に取っては「革命の聖山」という位置づけもある。日本による植民地時代に抗日闘争を繰り広げたパルチザン達の拠点でもあったからだ。その北朝鮮の象徴ともいうべき山に、韓国の大統領が登るという事実は、北朝鮮国民に取ってとても大きく象徴的な意味を持つ。  4月の南北首脳会談の象徴的なシーンが、板門店の軍事境界線の「行ったり来たり」であるならば、今回の首脳会談の象徴的なシーンは、両首脳の白頭山訪問と言っても過言ではない。 3)金正恩委員長のソウル訪問意思の表明  これが実現すれば、朝鮮半島情勢は新しい時代に突入するだろう。北朝鮮のトップのソウル訪問については、故・金正日総書記が、2000年6月、韓国・金大中大統領との初めての南北首脳会談の際に「適切な時期にソウルを訪問する」としたことに端を発する。  父が叶える事が出来なかった「ソウル訪問」は、南北関係にとって大きな意味を持つ。今回の会談において、金委員長は「周囲は反対している」が、「自分の強い意志でソウルを訪問する」と発言している。  両首脳の共同記者会見において、ソウル訪問時期について、金委員長は「近い時期に」と発言するに留まったが、直後に文大統領は「特別な事情が発生しなければ年内」と具体的なスケジュールを示した。  これは「10月の第2回米朝会談」を念頭においており、朝米会談後に、北朝鮮が東倉里に続き、寧辺地域の核施設の永久廃棄」を実行、そしてソウルへの訪問というスケジュールになる。
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安倍政権にとっては厳しい選択を迫られる状況に
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