クルーグマンが「独裁国家」と糾弾したポーランドの状況が驚くほど安倍自民党政権と酷似していた

 アメリカが独裁国家になる……。ノーベル経済学賞受賞者、ポール・クルーグマンがそんな警告を発したことが話題になっていることをご存じだろうか?

司法やメディアを支配

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近年、大きく経済発展を遂げているポーランドだが、強権的な政治姿勢には国内外から批判の声も

ニューヨーク・タイムス』への寄稿で、クルーグマンが独裁国家の例として挙げたのはポーランドとハンガリー。日本ではあまり報道されていないが、どちらの国でも与党の強権化が進み、ここ数年、たびたびEUから警告を受けている。  クルーグマンは次のように両国を批判し、同様の事態が共和党政権下のアメリカでも押し進められてきたと指摘する。 “どちらの国でも選挙制度を維持しながらも、与党が司法の独立性を破壊、報道の自由を抑圧、大規模な腐敗を組織的に行い、反対意見を効率よく禁じてきた”  11月に行われる米国中間選挙で共和党が勝利し、両院を支配することになれば、想像以上の速さでポーランドやハンガリーのようになってしまうと警告するクルーグマン。  また、今年8月にはトランプ大統領の元選対本部長が脱税などの容疑で有罪判決を受けたが、共和党が勝利した場合、トランプ大統領に向けられた疑惑も調査されないだろうと予測している。これまでは与党内でも自浄作用が働いていたが、いまや「政党への忠誠心は、憲法責任に勝る」状態だとクルーグマンが指摘する箇所は特に印象的だ。  遠い東欧やアメリカで起きていることだから……と他人事のようにも思えるかもしれない。しかし、「独裁国家」とまで名指しされたポーランドの政治動向を見てみると、日本に暮らす我々も、より厳しく政権を見守る責任があると感じさせられる。  例えば今年7月には与党が最高裁判事の首をすげ替えやすくする法案が通過。これに先立って、ポーランドでは最高裁判事の定年が引き下げられており、72人中、27人の判事が交代する事態となっていた。  この動きに対して、EUは司法介入であると批判、交代を余儀なくされた最高裁長官も憲法違反であると抗議していた。しかし、3分の2程度しか判事が決まっていないなか、今月早くも暫定長官がスピード指名されることに。  細かい議論が行われないまま、次々と法制度が変わることにポーランド国内ではデモが発生。『CNN』が参加者のコメントを報じている。 「私は共産主義の時代を生き抜いてきました。この場に若い人が少ないことはとても悲しいですが、彼らは共産主義時代を生きていません。彼らは携帯電話を持っているし、今はインターネットがある。(政権の司法介入が)何を脅かしているか、あまりわかっていないんです。我々は命を脅かされているんです」  国内外で危機感が募るなか、政権側は共産主義制度が崩壊した’89年以降、司法制度が進歩してこなかったため、必要な処置であると主張している。  こうした強権的な改革を押し進めているのは、’15年に上下両院選挙で過半数を獲得し、8年ぶりに政権に返り咲いた政党「法と正義」だ。ポーランドは国民の90%以上がキリスト教・カトリックを信仰しており、元来保守的な思想を持った人も多い。法と正義は中東からの移民・難民の受け入れ反対妊娠中絶の禁止(’16年に否決)、同性愛反対などを掲げ、保守層からの支持を集めてきた。  そして与党に返り咲いてからは、それまで以上に性急かつ大胆な動きを見せている。’15年10月に総選挙で勝利したわずか1か月後には、法案の違憲審査をする憲法裁判所の改革に着手。それまでは裁判官の過半数が支持すれば違憲判決を下すことができたが、3分の2以上の支持が必要となり、裁判所の権限が大幅に制限されることとなった。  同様の動きは司法だけではなく、メディアに対しても見られる。’16年にはメディア法が改正され、公共放送トップに対する任命・罷免権を政府が握ることに。以後、「法と正義」に批判的だった記者が解任されなど、こちらもEUを含め、国内外から批判の声があがった。  明らかな報道規制と言える動きだが、これに対しても法と正義は「メディアがより独立、中立的で信頼できるものになるよう行った」と釈明。『BBC』など、他国メディアでも報じられる事態となった。 “ワルシャワのBBC、アダム・イーストン記者によれば、ポーランドの新政権は国有企業や公共機関、メディアに身内の人間を配置しがちだが、法と正義はさらにその動きを加速させている
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一度は野党に転落
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