昭和が過ぎ、平成も終わる今、「職業選択の自由」を勝ち得たのか? 転職CMから振り返る/「サラリーマン最終列車」#4

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※写真はイメージです photo via ashinari

 テレビをつけてもSNSを開いてもタクシーに乗っても、人材情報サービスの広告に当たりまくる2018年、夏。もともと夏のボーナス時期は転職のピーク・シーズンで、加えて今や日本は高度経済成長期以来の空前の人手不足。厚生労働省が7月31日に発表した6月の有効求人倍率は44年ぶりの高水準らしい。  こうした追い風を背景にして、僕が大好きだった「オー人事」のCMが今年から復活している。株式会社スタッフサービス・ホールディングスによるこのキャンペーンは、’97年から’03年まで続いていたので、実に15年ぶりの再開だ。  職場の環境や人間関係に我慢できなくなった人が、チャイコフスキーの弦楽セレナーデが流れるなか、すがる思いでスタッフサービスに電話をする。そんなフォーマットで大量のバリエーションを生み出した当時のオー人事CMは、古いサラリーマン社会を風刺していた。  不毛な社内の派閥争い。果てしなく階層化される年功序列。威張るだけの上司。それらは全て旧世代のしがらみであり、その隷属からなんとしても「脱出」して「解放」されたい。そんなアンチ昭和サラリーマン・スピリットが、このCMの隠されたメッセージであり、バブルが崩壊したあの頃の時代の気分でもあった。  当時、個人的に一番好きだったのは、社員総会でヨボヨボの老人役員たちが全員バニーガール姿で登壇し、全社員がパニックになって電話をめがけて走り出す、という大脱出バージョンだった。役員全員バニーガールになれるクレージーな会社が本当にあったらむしろ働いてみたい、と思った。自分もサラリーマンとしてまだまだ未熟だった。  今年復活を果たしたオー人事のCMも以前と変わらず、不満のある職場から逃げ出す人々を描いていて、相変わらず面白い。だけど今の転職を巡るムードは、果たしていまだに「脱出」や「解放」なんだろうか。

最近の「転職広告」は、「その先」を見据えてる!?

 DNAに刷り込むレベルの圧倒的出稿量を重ねるIndeedを別にすると、最近目立つ転職広告といえば、なんといってもビズリーチ。上司に転職人材を紹介した女性社員が勝ち誇ったように「ビズリーチ!」と人差し指を立てる動画は、女性社員を演じる吉谷彩子のキュートさと相まって奇妙な中毒性がある。  ビズリーチは、オー人事よりも転職をポジティブに捉えているように映る。古臭い労働環境から「脱出」すること自体がゴール、というのが20年前の転職イメージだったのだとすれば、脱出した先で得られる「キャリアのステップアップ」に重きが置かれるのが今の転職の気分なのだと思う。  最近のDODAの広告コピーは「条件は、今よりいい会社。以上。」だし、マイナビ転職は「賛成!あたらしい生き方」だったりで、みんな脱出の先を見据えている。バイトルNEXTの「正社員に、なる。」という低めのド直球ぶりにはビックリしたけれど、まさに転職がキャリアアップとイコールになった時代を身もふたもなく表現している。  終身雇用と年功序列が崩壊しつつあるなかで雇用が流動化し、人手不足という追い風も吹いて、会社を変わる心理的ハードルは以前より確実に低くなった。サラリーマンは会社に縛られずに自由にキャリアを選択しやすくなり、その結果「脱出」はもはや目的ではなくプロセスのひとつでしかなくなった。転職広告のトレンド変化の背景は、たぶんそういうことだろう。
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果たして「不自由な昭和」は終わったのか?CW
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