LGBTQのキャラクターは「誰が演じるべきか」。ハリウッドで大論争に

Photo by Sean Zanni/Patrick McMullan via Getty Images

 LGBTQがテーマの映画と言われて、どの作品を思い浮かべるだろうか? これまで『フィラデルフィア』のトム・ハンクス、『ダラス・バイヤーズ・クラブ』のジャレッド・レトなど、多くの役者たちがLGBTQを演じてアカデミー賞などに輝いてきた。しかし、そんな時代が終わるかもしれない。

登場人物のセクシュアリティを“削除”

 今年に入ってから、ハリウッドではLGBTQに関連した議論が活発になっている。まずは『ハリー・ポッター』シリーズのスピンオフ作品『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』だ。  同作品では人気キャラクターであるアルバス・ダンブルドアの若き日が描かれる予定となっているのだが、実はこのダンブルドアがクィアであると原作者のJ・K・ローリングが明言したのだ。一般にクィアとは自身の性的志向が定まっていない人とされている。『ハリポタ』ファンの間では以前からダンブルドアがゲイなのではないか? という意見が多く出ており、それに対して原作者が具体的にセクシュアリティを明かしたという流れだ。  ところが、今年1月に『ファンタスティック・ビースト~』の監督デヴィッド・イェーツが、同作でダンブルドアのクィアとしてのセクシュアリティは触れられないと語ったのだ。これに対して、ファンからは「セクシュアリティを意図的に削除している!」と非難が噴出する事態に……。  さらには『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズなどで知られる重鎮俳優、イアン・マッケランがこの問題について意見を発表。79歳のマッケランはゲイであることをカミングアウトしており、たびたびLGBTQが映画界で不当に扱われていると発言してきた人物だ。  『タイムアウト』による取材で、ダンブルドアのセクシュアリティが明確にされないと伝えられたマッケランはこう答えている。 「そうなの? それは残念だね。まあ誰もハリウッドに社会的な意見は期待してないでしょう。最近ようやく世界には黒人がいるって気づいたぐらいだから。ハリウッドはその歴史のなかで、あらゆる点から女性を虐待してきたし。(ハリウッドの業界人にとって)ゲイの男性なんて存在していないんだよ。(マッケランが出演した)『ゴッド&モンスター』はゲイの人がいるとハリウッドが認め始めたキッカケだと思う。ハリウッドの半分はゲイだっていうのに」  ご存じのかたも多いだろうが、ヒーロー大作の『ブラックパンサー』や『ゲット・アウト』など、ここ数年ハリウッドでは黒人スタッフによって製作された映画が大ヒットしている。これまでは「黒人が作った映画は黒人にしかウケない」といった偏見が蔓延していたが、それが覆ったのはつい最近のことだ。  そういったハリウッドのマイノリティに対する扱いを皮肉りながら、LGBTQについての厳しい現状を訴えていたのである。  賛否両論出ている『ファンタスティック・ビースト〜』問題。渦中のキャラクターを演じたジュード・ロウは、監督の判断について『エンターテイメント・ウィークリー』のインタビューでこう答えている。 「(原作者の)ジョー・ローリングは何年か前にダンブルドアがゲイ(実際はクィア)だと明かした。実は僕も彼女にそれを聞いて、ゲイだと言っていたよ。だけど、必ずしもセクシュアリティがその人間を定義するわけじゃない。彼にはいろんな面があるんだ。問題となっているのはダンブルドアのセクシュアリティがどのくらい映画のなかで明かされるかだと思う。この映画はまだシリーズの2作目だ。ジョーの書き方で素晴らしいのは、彼女がキャラクターを解き明かしていく過程なんだよ。時間をかけて心の内まで剥き出していくんだ。この映画では、まだ観客がアルバス(・ダンブルドア)を知りはじめる段階で、その先にはもっと多くのものが待っている。この映画の冒頭では彼の過去について少しだけ知らされるが、登場人物と彼らの関係は自然に明かされていくんだ。それを明かしていくことが楽しみだよ。すべてをいっぺんには明かさないんだ」  ロウは同作がセクシュアリティを“削除”したのではなく、あくまで話の展開上触れられていないだけだと主張している。続編が作られることになれば、登場人物のアイデンティティにもよりスポットが当たることになりそうだ。
次のページ
ゲイの役はゲイが演じるべき?
1
2
3
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会