NATO首脳会談でのトランプによるメルケル批判。その背後にある「欧州液化天然ガス市場」の覇権争い

© Nord Stream 2 / Axel Schmidt

 7月11日にベルギーの首都ブリュッセルで北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議が開かれた。この会議の席でトランプ米大統領はいつもの通りドイツを痛烈に批判した。今回の批判の対象にしたのは、ドイツがロシアからの天然ガスへの依存度が高く国の独立性が保たれていないという批判であった。  トランプはそれを次のように表明した。「ドイツはロシアから完全にコントロールされている。なぜならドイツが消費するエネルギーの60~70%は建設中のノルド・ストリーム2も加えてロシアから供給されることになるからだ。それによって年間に多額のお金がロシアに支払われることになる。その一方で、米国はロシアからの脅威の前にドイツそして他のヨーロッパの国々を守っている」と述べた。ノルド・ストリーム1は既に稼働している。  更にトランプは「この点について、我々はドイツと議論すべきだ。というのも、ドイツはGDPの1%を少し越えた額を軍事費及びNATOに充てているだけだ。それに対して米国は4.2%もの費用をそれに使っている」と指摘した。(参照:「El Economista」)  言いがかりにも等しいトランプのいちゃもんに対し、メルケルは「旧ソ連によってコントロールされていた(現在の)ドイツの一部で私は生活していた。今、我々はドイツ連邦のもとで自由のある中で統一されていることに私はとても感謝している。だから、我々は独立した独自の政治を行い、我々が独自の決定を下している。またそうであるべきです」と返答したという。(参照:「El Economista」)

トランプ、いちゃもんの背景

 今回のNATO会議でのトランプのドイツへの批判の根底にあるのは、トランプは米国のLNGをEU加盟国に売り込みたがっていることが背景にある。その為に、まずEUのリーダー国であるドイツが米国の敵であるロシアから多量に天然ガスを購入していることを批判し、EU内でもノルド・ストリーム2の建設に反対している国を米国の味方につけることを望んでいるのである。  現在、EUで消費される天然ガスの3分の1を賄っている北海で産出される天然ガスの産出量は徐々に減少している。  そこで米国のシェールガス企業が狙っているのは、先ずロシアからの依存度の高いドイツを批判することによって、天然ガスのロシアからの輸入を減少させ、米国のLNGの市場をEUに構築させることである。その代弁者がトランプなのである。トランプは政治家というよりも商売人だ。  米国は、ヨーロッパではガスの供給元を分散できるだけの大きな市場があると見ている。また、ノルド・ストリーム2の建設にEU加盟国がすべて賛成しているのではない。ドイツ、オーストリア、オランダなどは鮮明にこのプロジェクトに賛成を表明しているが、ウクライナのように自国を経由してEU圏へのガス供給量が減少することから、それは財政の歳入増加に繋がらないとして反対している。  また、当初サウス・ストリームの建設のルートに予定されていたブルガリア、セルビア、ハンガリー、イタリアなどはこの建設による恩恵はないと見て必ずしも賛成していない。特にイタリアの首相がレンツィーの時、彼はノルド・ストリーム2の建設はEU議会で事前の承認を受けるべきだという提案をしていた。  イタリアはサウス・ストリームが建設されていれば、イタリアの半国有石油・ガス企業ENIがその建設に参加する予定だった。それは間接的にイタリアの財政を潤すことに繋がっていたはずであった。 しかし、このプロジェクトは米国が干渉してブルガリアに圧力をかけて同国内でパイプラインの建設を承認させないようにした。そこでロシアはその建設を放棄したという経緯があった。  ノルド・ストリーム2の建設についても、トランプはこの建設に参加する企業に対し、米国は制裁を科すことも検討しているという。2015年からこの建設プロジェクトが開始されており、今になって制裁を科そうとするのはトランプ特有のやり方であろう。このプロジェクトに参加している主な企業はロシアGazprom以外にドイツUniper、オーストリアOMV、フランスEngie、ドイツWintershall、英国とオランダRoyal Dutch Sellとなっている。
次のページ
欧州のガス覇権を握るのは米ロどっちだ
1
2
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会