麻原彰晃らオウム事件死刑囚の執行のされ方と報じられ方に見る、日本社会の変質

写真/時事通信社

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 死者13人、負傷者総数7000人弱。麻原彰晃こと松本智津夫率いるオウム真理教が引き起こした、地下鉄サリン事件の犠牲者の数である。忘れてならないのは、この犠牲者数が、あのテロ事件単体の犠牲者数のカウントだということだ。  立件された事件、つまり警察や検察が「オウム真理教による犯罪である」と認知し、認定できた事件での被害者総数は死者29人にのぼる。  まさに「殺人集団」。悪魔の所業と断罪してしかるべきだろう。  彼らの引き起こした数々の犯罪では、いまだに後遺症に苦しんだり、心の傷が癒えずにいる人が多数いる。事件の記憶をいまだに引きずっていたり、一家の大黒柱を失ったことで経済的に塗炭の苦しみを味わったご遺族のことも忘れてはいけないだろう。そうした人々にとって、オウムの引き起こした事件はまだ終わったとはいえない。  この観点から見れば、今回執行された、松本智津夫をはじめとするオウム事件関係者の死刑は、当然ではある。死刑判決が出てからもう随分の歳月がたっている。遅すぎると言ってもいいかもしれない。それに遡る死刑判決そのものも、犯罪の悪質性、被害の甚大さ、のちに与える影響など、そしてなにより松本智津夫の無責任な対応から考えて、法定刑として死刑制度を持つ我が国の刑事裁判として妥当なものと言えるだろう。  しかし、しかしである。  一連の事件の関係者を一度に7人も同日に死刑執行するなどということは前代未聞だ。「慣例では同一事件同時執行」とも言われるが、一連の事件をめぐっては、13人の死刑が決まっているため、この時点で原則が崩れている。なによりも驚きなのは、あの日に死刑が執行されるという情報が事前にメディアに漏れていた可能性があるということだろう。
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