Hagexさん刺殺事件にみる、暴力によって社会階層を破壊しようとする人々<北条かや>

亡くなったhagexさんの運営していたサイト

北条かやの「炎上したくないのは、やまやまですが」その30  ネット上の炎上事件や小ネタをまとめる人気ブログを運営し、ツイッター界隈では名の知られていたブロガー、Hagex氏(41)が暴漢に襲われて亡くなった。  ブログ運営に関するトラブルのセミナーを開催した直後に、背後から刺されたという。人気ブロガーの突然すぎる死に、まるで悪夢を見ているような気持ちになった人は多いと思う。私もその一人だ。  犯人の無職男性(42)は、はてなブログ上で「低能先生」と呼ばれていた。  他人を「低能」と罵る誹謗中傷を繰り返し、迷惑がられていたという。それをHagexさんが批判し、「低能先生に対するはてなの対応が迅速でビックリ」という記事を書いたのがきっかけとなった。  大手メディアは「ネット上の恨みが原因か」と報じ(朝日新聞2018年6月25日)、Hagexさんが逆恨みされたとの見方が有力である。  しかし、「逆恨み」=「2者間のトラブル」を思わせる表現はそぐわない。

「やるときはやる」を誇示したかっただけの理由か

 彼と親しかったおおつねまさふみ氏(炎上対策会社「MiTERU」代表)は、26日放送のAbemaTV『AbemaPrime』ニュース内で、本当の引き金になったのは「6月10日の増田(はてな匿名ダイアリー)ではないか」と主張した。  そこには「低能先生は引きこもりでネット弁慶だから何もできないだろう」との揶揄が書かれていたという。  松本容疑者は、Hagexさんを刺した直後の犯行声明と思われるブログで、「おいネット弁慶卒業してきたぞ」と述べていることから、「ネット弁慶=口だけで誹謗中傷を繰り返し、何も行動できない奴」と思われたことに過剰反応したのではないか。  犯行声明が本物だとしたら、「オレもやるときはやるんだぞ」と興奮気味に主張しているように見える。  つまりHagexさんが殺されたのは、彼が松本容疑者(「低能先生」)を批判したユーザーのうちの1人で、たまたま名前が知られていて、たまたま容疑者が住んでいた福岡でイベントを主催したからだ。  Hagexさんは、あまりにも理不尽な理由で命を奪われてしまった。  容疑者は42歳。有名大を卒業したものの仕事に恵まれず、数年前からは無職だったという。そして、「低能先生」による荒らし行為は数年前から始まっていた。こうして文字に起こしただけで、彼の仕事人生があまりにも「ロスジェネ」的であると指摘する向きもある。  ロスジェネ世代は70年代~80年代前半生まれで、社会に出るタイミングがちょうど就職氷河期だった。  非正規雇用の割合が高く、40代になった今、無職に陥るケースも珍しくない。90年代の不況時、団塊世代やバブル世代の雇用を守るために、ロスジェネ世代は非正規雇用にとどめ置かれた。  彼らの一部が鬱屈した内面を抱えたのは、国のせいだという意見もあるし、確かにそうなのだが、世代だけですべてが割り切れるものでもあるまい。
次のページ
「ネット弁慶ではない」という根性試しのダシにされるネット有名人
1
2
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会