『21世紀の資本』が示唆する絶望的な資本主義の未来とは?

実に700ページにも及ぶトマ・ピケティ氏の著書『21世紀の資本論』が世界的ベストセラーとなっている。広がる格差と資本主義の矛盾を記したこの本が、なぜ今、人々を熱狂させるのか?今回「超難解」とも言われる同書を超カンタン解説する。

資産課税の強化か? 世襲型資本主義の未来か?

 このままいけば、ひどい格差の時代がやってくるのは間違いない。第4のポイントは、格差拡大を食い止めるには、グローバルな累進課税が必要というピケティの指摘だ。 【第3のポイント】はコチラ⇒https://hbol.jp/16464 「ピケティは所得税の累進化の強化だけでなく、むしろ資本への累進課税の強化が重要と説いています。ほとんどの国には固定資産税はあるが、これ以外の課税はないのが実状。つまり、株や現金などの金融資産を、誰がどのくらい持っているか、よくわからないのです……。しかも、大金持ちは外国の銀行に資産を送って逃げてしまう。ピケティは、タックス・ヘイブンに送られた資産が、世界のGDPの実に7%にも達することを膨大なデータから弾き出しました。こうしたキャピタル・フライトを防ぐためにも、彼が提唱したのが、世界的な金融機関の情報のオープン化です」(大手シンクタンク・コンサルタントで評論家の山形浩生氏) ピケティ これまで世界のGDPの帳尻が合わないのは、統計的な誤差とされてきたが、実に7%もの巨額の富が課税を逃れていたのだ。 「所得税も現在の最高税率は30%台ですが、戦後のように80%程度に引き上げるべきと、ピケティは言っています。ただ、今の世の中で増えているのは資産だけ。フローである所得は捕捉しにくいが、ストックである資産は固定資産税のように課税しやすい。もっともピケティ自身も国際的に課税の網をかけるのは不可能と明かしているが、一定の経済規模のEUやアメリカから始めることはできる、とも言っている。このまま累進課税が強化されないと、資産を持つ人が圧倒的に強い世襲型資本主義の社会になってしまう……。そうなってしまえば、いくら働いても報われません」(獨協大学経済学部の本田浩邦教授)  資本主義の未来が問われている。 【山形浩生氏】 大手シンクタンク・コンサルタント。評論家。翻訳家。近著『「お金」って、何だろう?』(岡田斗志夫との共著。光文社新書)ほか、著書多数 【本田浩邦氏】 獨協大学経済学部教授。専門は現代アメリカ経済論。共著に『格差と貧困がわかる20講』(明石書店)、『現代アメリカ経済分析』(日本評論社) ― ピケティ『21世紀の資本論』丸わかり解説【5】 ―
21世紀の資本

格差をめぐる議論に大変革をもたらしつつある、世界的ベストセラー

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