戦後史が作り出した“壮大な無駄”・「通勤時間」をなくす処方箋はあるか<北条かや>

通勤ラッシュ

日本の朝の風物詩である通勤ラッシュは外国人を驚かせている

北条かやの「炎上したくないのは、やまやまですが」【その18】

 イケダハヤトさんのあまりにも有名なブログタイトル「まだ○○で消耗してるの?」の○○に当てはまるもののひとつに、満員電車での「通勤」があると思います。  会社員だった数年前、満員電車が苦痛で仕方なかったのと、その苦痛を含めた日本の企業社会にうまく順応できなかった悔しさから、私は今でも通勤ラッシュが苦手です。あれに適応できていたら、もっと上手に「社会人」ってやつをやれていたかもしれないのに……。  先日、コンテンツ投稿サイト「note」ではこんなエントリが話題になっていました。  ズバリ「通勤時間は壮大な無駄です」。  投稿したのは、フィリピンで英語学校を経営する松井博氏。彼は日本に一時帰国するたび、毎日のように「通勤時間のムダ」を思うそうです。松井氏は、「何年か前に首都圏の住民を対象に行われたアンケートで、通勤時時間の平均が58分と読んだ記憶があります」とし、 「首都圏の各地から昼間東京都内に流入する人口が289万人(東京都のホームページより)ですので、片道だけでざっくり289万時間、往復で578万時間、つまりたった1日で72万2500人日(1日8時間労働と仮定)もの労働力が通勤に消えているとも言えるわけです。(中略)あまりの壮大なムダっぷりに口があんぐりと開いてしまうレベルです」と主張。  確かにムダですよね。自分が1時間かけて通勤していた頃を思い出すと、朝は頭が働かず、ニュースチェックや読書にあてるなど「意識高い系」の過ごし方はしていませんでした。  ただ「今日も怒られないようにしないとなぁ」等とぼんやり考え事をしていたような気がします。だから彼のいう通勤時間の「ムダっぷり」がよく分かります。  満員電車にはもちろん、私のようなダメウーマンだけでなく、ポッドキャストで語学を学習したり、株価チェックにいそしんだりする生産性の高い人もたくさん乗っていると思いますが、先日通勤電車の中を見渡してみたところ、サラリーマンや学生の7割はスマホゲームをしたり、音楽を聞いたりと娯楽の時間に充てている印象でした。娯楽が悪いわけではないのですが、これじゃあ「通勤時間はムダ」と言われるのも仕方ないかもしれません。  なぜ、日本人の通勤時間はこんなに長くムダなのでしょうか。その発端は高度成長期の都市開発にあります。ホワイトカラーが増え始めた戦後期、鉄道各社は都心から郊外へと同心円状に線路を伸ばしました。都市の中心部には高層ビルがまとめて建つようになり、ホワイトカラーの男性たちが働きます。  そのうち男性たちは結婚し、アメリカから輸入された「夢のマイホームと奥さん、子供2人」という理想像を追い求めて家を手に入れようとしました。ところが、都心はオフィス需要で地価がつり上げられているので家など買えるはずもありません(やはり我々は狭く古い家より、理想の新築一戸建てがほしいのです)。
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夢のマイホームは郊外にしかなかった!?
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