座間事件の再発防止に「ネット規制」は無効! 自殺志願者の救援システム拡充が急務

ネット規制

ネット規制は根本解決にはならない。課題は自殺予防システムの継続運営である

 2017年10月末に発覚した神奈川県座間市の9遺体遺棄事件を受け、政府は再発防止に関する関係閣僚会議を開いた。自殺をほのめかす書き込みの監視や、「自殺に関する不適切なサイト」への対策の強化を考えているという。  ネットで自殺願望をつぶやく人を探しだし、同志だと欺いて誘い出しては死に至らしめる。そんな悪意をブロックし、集団自殺も防ぐとしたら何ができるのだろうか。  ネットと自殺予防の研究で知られる和光大学准教授・末木新氏は「ネットとリアルを切り分ける発想自体に問題がある」と語る。 「今回の事件が証明しているように、ネットとリアルは地続きです。SNSの利用データを使って自殺のリスクが高い人を発見することはさほど難しいことではありません。書き込みを規制しても隠語等の発生は止められませんし。問題はそうした悩みを抱えている人たちを誰が支援するのか明確ではないところだと思います」  過去にも近い要素を持った事件はあった。有名なのは’98年の年の瀬に発生した「ドクターキリコ事件」だろう。自殺掲示板の管理者が相談者に「お守り用」として青酸カリカプセルを渡し、そのカプセルで自殺してしまった事件だ。ドクターキリコを名乗っていた管理者も知らせをうけて同じ方法で自殺している。その後も、’00年代にメールや掲示板を使って仲間を募る集団自殺事件が相次いだのは記憶に新しい。  「死にたい」や「一緒に死のう」といった文言で検索にかければたくさんのアカウントがヒットするし、しばらくフォローしていれば自殺願望の深さも伝わってくる。  特にSNSは横軸と縦軸でその人となりが知れる構造になっているので、いかようにも悪用できてしまう。自殺願望を抱く人が、そうした黒い意思や具体的な自殺方法に触れる機会を減らす取り組みは必要だが、「ネットは危ない」、「規制せよ」といった風潮に、末木氏は異議を唱える。 「ネットは道具にすぎず、使い方は使い手の意図と道具のデザインによって決まります。悪意をゼロにすることは非常に難しいと思いますが、だからこそ、なるべく自殺を予防する方向で道具をデザインすることが肝要でしょう」  実際にそうした取り組みは広がりをみせている。フェイスブックやツイッターは、自殺をほのめかす投稿があった場合、それに気づいた人が通報する仕組みを導入している。通報された相手には、運営元からのメッセージとともにその国や地域にあった悩み相談の窓口が表示される。
次のページ
自殺志願者の救援こそ国を挙げて対策を講じるべき
1
2
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会