ワシントン・ポストが報じたiCloud、疑惑の挙動――江藤貴紀「ニュースの事情」

 筆者の私見では、前ページ(https://hbol.jp/14795)で書いたように、ダイレクトに思想信条や政治傾向を聞いてくるニコニコ動画のサービスは、たとえ利用規約でそれらの情報と個人情報を紐付けて第三者に提供することを禁止していても、考えうる限りもっとも危険だ。  なぜならば、当初のプライバシーポリシーにはさほどの問題が無くても、多くのウェブ・PC関係のサービスは企業側による利用規約の一方的な変更により内容の変更が可能な定めとなっているからである。急に利用規約が変えられて、気が付かないうちにデータが取られている例が最近何度か報じられているのだ。
ロシアがアップル製品を禁止することを決めたと報じる英サイト

ロシアがアップル製品を禁止することを決めたと報じる英サイト

 10月30日のワシントンポストによれば、「AppleはMacBookなどのPCから利用者に無断で利用者のファイルをiCloudに複製している」という記事が掲載されて、アップル製品のデータ保管サービスiCloudの利用契約について急な変更がされたと報じられた。そして一定の状況下で————例えば、Macで使われる代表的なファイル形式(例えばテキストエディットというメモ帳のようなもの)に名前を付けないまま電源を落としたりすると、ファイルがユーザーの意思に関わり合い無く勝手にiCloud———つまりアップル社の管理するコンピューターサーバ群に保管されるようになったという。 参照:http://www.washingtonpost.com/blogs/the-switch/wp/2014/10/30/how-one-mans-private-files-ended-up-on-apples-icloud-without-his-consent/  特筆すべきは、この件について周知されたのは、暗号・コンピュータ関係の専門家が自分たちのPCの動作がおかしいことに気づいたのがきっかけと言うことである。まずセキュリティ研究者のジェフリー・ポール氏が自身のPCでローカルファイル上にしかないはずのファイルがiCloudに保管されているのを発見して、ブログに掲載した。またジョンズホプキンス大学の暗号学者マシュー氏がツイッターでつぶやき、別の高名な学者スキナー氏もおなじ事をブログに書いてから一般に拡散、そしてようやく普通のメディアであるワシントンポストに掲載されたと言うことである。  つまり大きなタイムラグがあるわけで、一般人がこの情報を知るまでにはサービス内容の一方的な変更からずいぶんと時間がかかったことが想定できる(※なお、筆者は日本の全国紙や新聞などの従来型メディアでこの件を取り扱ったものは不勉強ながら見ていない)。  なお、この報道が出た後の11月5日の科学技術情報発信の英メディア「The Register」によると、ロシア政府が2015年から、iCloudがスパイウェアであるなどという理由などで、来年から全てのアップル製品の輸入を禁止すると発表したという(※なお、11月30日時点で、このロシアによる使用禁止についてはネットで普通に検索する限り国内メディアではメジャーどころで触れているところは見当たらず、かえって個人ブログやまとめブログなど経由でこの話は拡がっているようである)。 参照:http://www.theregister.co.uk/2014/11/05/russia_set_to_ban_icloud/  ちょうどワシントンポストより先にSNSやブログ経由でiCloudの怪しい作動について情報が拡がったのと同じ状況である。  アップル社の建前はうっかり作業中のファイルが消えないようにするということであったようだが 、ユーザーのほとんどが気づかないバックアップサービスは本当にバックアップの目的なのかという疑念が生じてくる。ロシア政府の法案についての報道が真実であるとするならば、アップル社というか米国の・スパイ的な活動が本当の狙いという見立てのほうがまだ筋が通っているようにも思えなくもない。 ⇒【その3】ユーザーの気づかぬ内に変更されるサービス に続く 【その1】ニコニコ動画の「思想信条・支持政党調査」、氏名などと紐付けて第三者に売却される可能性も 【その4】日本で進む「国勢調査IT化」は大丈夫なのか? <取材・文/江藤貴紀 (エコーニュース:http://echo-news.net/)> 【江藤貴紀】 情報公開制度を用いたコンサルティング会社「アメリカン・インフォメーション・コンサルティング・ジャパン」代表。東京大学法学部および東大法科大学院卒業後、「100年後に残す価値のある情報の記録と発信源」を掲げてニュースサイト「エコーニュース」を立ち上げる。 ― ニコニコアンケートの大規模「思想信条・支持政党」調査に孕む危険性【2】 ―
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