北朝鮮の大陸間弾道ミサイル、届くのは「アラスカ」まで。それでも脅威な理由とは?

朝鮮中央テレビが放送した大陸間弾道ミサイル「火星14型」の映像。2段目に搭載されたカメラによって、1段目が分離する様子が映っている Image Credit: KCTV

火星14型はたしかにICBM、けれども……

 当初、米太平洋軍はこの火星14型を「中距離弾道ミサイル(射程3000~5500km)」であると分類していたが、その後、米政府高官が「ICBMである」と発言したことを米メディアが報じ、さらにその後、国防総省やティラーソン国務長官がICBMであることを発表するなど、やや混乱がみられた。  あるミサイルが「ICBMか否か」という定義は、今のところ「射程が5500kmを超えるか否か」ということだけによって定められている。これは冷戦中、ソ連と米国本土(この場合の本土とは、アラスカやハワイを除く、ワシントンD.C.やニューヨークのある、いわゆるCONUSのこと)をまたいだ距離から定義されたもので、そのまま他のミサイルにもこの定義を当てはめて論じるのは、やや問題がある。  北朝鮮は火星14型を、もはやおなじみとなった「ロフテッド軌道(ロフテッド・トラジェクトリィ)」という、通常より上向きの角度で飛ばすことで、高い高度まで飛ぶ代わりに、飛行距離を短く抑えられる撃ち方で発射した。つまり標準的な角度で発射した場合の飛行距離、つまりミサイルとしての実際の射程は、それよりも長い。  憂慮する科学者同盟(UCS)のDavid Wright氏の分析では、火星14型を標準的な角度で発射した場合の射程は、約6700kmになるという。つまり前述した定義上のICBMではあるものの、届くのはせいぜいアラスカまでで、米国本土には届かない。北朝鮮からワシントンD.C.までの距離は約1万kmを超えるので、火星14型の約2倍の射程が必要になる。  たしかにアラスカは米国の領土であるし、ユーラシア大陸から北米大陸の“大陸間”を渡ることができるので、火星14型をICBMと言ってもよいことには違いないだろうが、しかし、ロシアや中国などがもつICBMと同等の能力を手に入れた、ということにはならない。  この、アラスカまでしか届かないICBMというのは、おそらく北朝鮮にとってはぎりぎりのラインを攻めたものだろう。つまり射程5500kmを超える能力をもったミサイルを撃ってみせることで、他ならぬ米国が定めた定義上のICBMを発射した、と主張することができる。ただし、米国本土に到達する能力はないし、また米国がそう分析することは織り込み済みだろうから、直接的に刺激する意図はない、というメッセージにもなる。  実際、今のところ米国は、これまで行ってきたこと以上の行動は起こさないようである。定義上はICBMだとしても、米国本土までは飛んでこないため、危急の問題ではないという認識なのだろう。ただ、それは単に受け止め方の問題なので、今後これまで以上の行動、たとえば軍事行動を起こす場合には、その理由づけのひとつになる可能性はある。
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将来の危険性は無視できない
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