藤井聡太四段の快進撃を支えた、母のまなざし 口を出さずに、見守るだけ

 既報の通り、14歳の藤井聡太四段が史上最年少、かつ前人未到の29連勝を達成した。  藤井四段に限らず、偉業が達成される要因は自身の才能と努力によるものであることは言うまでもない。だが、そこと切っても切り離せないものが、家族のサポートである。  つい最近、囲碁史上最強の棋士である李昌鎬の自伝を読むと次のような言葉があった。才能を生み出す要素が何か、たった一行の中に凝縮されている。 「才能とは、家族の関心と愛を糧に育つ木です」  彼の一家については、藤井四段が小6のころから筆者はずっと取材・家族ぐるみの付き合いを続けている。  初めて愛知県瀬戸市にある藤井家を訪れたとき、筆者が参考にした書籍がある。米長邦雄著「人生一手の違い」(祥伝社)である。同書の冒頭に、著者が谷川浩司名人(当時)の実家を訪れる場面が出てくる。  あらすじをかいつまんで説明すると、こういうことだ。  谷川浩司が21歳で名人になった。自分はタイトルも手にしたが一番ほしい名人には四十代後半になった今も手が届いていない。試しに米長邦雄と谷川浩司の将棋をそれぞれ三百局ずつ並べてみたが、実力的には変わらない。むしろ自分のほうが手厚い。一体どういうことなのか。これはきっと実家に秘密があるに違いない。  ここからは、故米長会長の言葉をそのまま引用しよう。  谷川名人、そしてご両親と対座しながら、私は思った。 「家の空気が丸い」(文庫版、34ページより)  谷川浩司の父・憲正は寺の住職で、結婚以来一度も怒ったことがなかったという。そして息子が将棋を覚え、道場に通い始めると、ずっと外から見守っていたという。  あるとき、毎日外で待っている憲正氏に「あなたも相当将棋が好きですね」と話しかけた人がいた。(中略) 「私、将棋は知らないんです」  それを聞いた人は不思議そうに言ったそうだ。 「将棋を知らないで、そんなことしていても面白くないでしょう?」  憲正氏の答えは簡単であった。 「いいえ、子どもが喜んで将棋を指しているのを見るのが、楽しいんです」(同書 38‐39ページより)  筆者は同書に記されている「将棋が強くなる子供の家庭」を基準に、藤井家がどのような構成になっているか拝見することにした。  
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将棋の有段者が一人もいない藤井家
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