各地の大型施設が「耐震化」でピンチに……身売りするリゾートホテル、閉店する百貨店も

外資や大手資本が買収

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熊本地震後は休館を伴わない改修工事をおこなうホテルも多く、九州各地でこうした工事のようすが見られるようになった(別府市)。 復興需要も重なり、一部では資材不足も起きているという

 こうした宿泊施設の耐震化では、できるだけ客室窓からの展望を損なわずに耐震補強をおこなう必要があり、公共施設などよりも補強費が高額になってしまうことが多い。  先述の別府市中心部で休業している大型ホテル3社5館のうち、自社で耐震化に踏み切ることができたものは、地震直後の5月に建て替えを発表した1社1館のみ。このホテルの運営企業は他県でボートピア(競艇の場外舟券発売場)などの経営をおこなっており、ホテルの休業中も収益を確保することが可能であったことが早期の建て替え決定に繋がったとみられる。しかし、残る2社4館は、いずれも別府市内でのホテル経営を中核事業とする会社が運営するもので、自社の力のみで耐震化することは難しく、身売りすることになってしまった。この2社は、いずれも戦前から営業している老舗であり、惜しまれつつの閉館となった。
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建て替えに向けて解体が進む「別府富士観ホテル」。 オーシャンビューで、展望浴場や屋上ビアガーデンが人気のホテルだった。 多角経営をおこなっている都内の企業が経営するホテルであり、地震後の対応は早かった

 こうした状況に目を付けたのが、大手温泉旅館チェーンであった。  2社4館のうち「別府ホテル清風」(1931年創業、161室、650人収容)の2館は全国各地で温泉旅館を経営する「大江戸温泉物語」(江東区)が買収し、大規模改修をおこなった上で2017年中に「大江戸温泉物語 別府」として営業を再開することが発表された。  一方、隣接する「花菱ホテル」(1904年創業、143室、400人収容)が運営する2館は、同じく全国各地で温泉旅館を経営する「星野リゾート」(軽井沢町)が買収。こちらは全面建て替えをおこなうため、休業期間は数年間にわたると見られている。
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創業113年目となった2017年3月で閉館となった花菱ホテル。「これからも いつまでも」の看板が虚しい。 星野リゾートが買収しており、新施設の開業が待たれる

 このように、耐震改修を契機に、大手ホテルチェーンや投資ファンドなどが老朽化した地方の老舗ホテルを買収し、全面リニューアルした上で再オープンさせる動きは全国各地で起きており、特に別府と同様に築年数の高い大型温泉リゾートホテルが多い熱海・伊豆でも、大江戸温泉物語と星野リゾートという、今や温泉ホテル業界の覇権を争う「2大企業」による老舗ホテルの買収が相次いでいる。  こうした地方企業単独では難しいような老朽ホテルの買収による大型改修や建て替えは、地域に新たな競合を生むものの、温泉街に全体にとってみれば新しい風を吹き込むという働きもあり、観光活性化にも繋がるとして地元からは歓迎の声が上がっている。
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