世界のアート市場は7.3兆円。日本勢が存在感を示すために必要なこととは?

写真/M C Morgan

 世界のアート市場動向を調査する欧州美術財団(TEFAF)が発表したレポートでは2015年、全世界の美術品の売上高は682億ドル(7.8兆円)から638億ドル(7.3兆円)に下落した。  バブル期以降、特定のコレクターを除き日本人コレクターが世界のアート市場において存在感を示すことはあまりなかったが、昨年「ZOZO TOWN」を運営するスタートトゥデイ社長の前澤友作氏が、クリスティーズ・ニューヨークでJ.M.バスキアの大作を5728万5000ドル――60億円以上の高値で落札した。  もっとも、昨今こうしたケースは極めて稀だ。若手も含めて、日本のギャラリストには萎縮した日本的マインドセットから逃れられていない例も多いのだという。  国内のアート市場の動向に詳しく、アートギャラリーなどを運営する株式会社レントゲンヴェルケ代表取締役の池内務氏は、「日本のアートマーケットは海外と比べるとかなり規模が小さく、皆出口を求めていますが、一部のアーティスト、ギャラリーを除いて、なかなか突破口が見出せていない状況です。それではギャラリスト自身はもちろん、日本のアート市場が頭打ちになってしまう。若手のギャラリストを育てる仕組みが必要なんです」と語る。  ギャラリストの仕事とは、ギャラリーで作品の売買を行うだけではない。アーティストのディレクターを務め、展示やイベントなどの企画を通じて、担当作家の社会的評価を高める役割も担う。アートフェア――美術品の見本市は従来、画廊単位で出展する。一般的な国内のアートフェアは、出展料と運送料で数十万~数百万円、海外では数百万以上かかる。若手ギャラリストが経験を積むために出展するにはいかにもハードルが高い。  そこで池内氏は2008年、40歳以下の若手を支援するためのアートフェア「ULTRA(ウルトラ)」を立ち上げた。ウルトラの特徴は、出展の単位がギャラリーではなく、ディレクター個人になっていること。一人のディレクターが、一つの作品を、一人の顧客に提案するという、「1:1:1の関係」というシステムを構築することが狙いだった。出展の自由度を向上させるため、ブースの出展料は売上の15%に。以来、さまざまな形で開催されてきた。  そして今年も12月17日(土)から12月25日(日)に表参道の複合文化施設「SPIRAL(スパイラル)」で、「the artfair +plus-ultra」(ジ・アートフェア+プリュス-ウルトラ)が開催された。 「2008年に立ち上げたウルトラですが、いまはスパイラルに運用を任せています。そもそもウルトラを企画したのは、リーマンショックが起こる少し前。ちょうど、若手の画廊が続々と出てきた頃で、業界に新風を吹き込みたかったんです。アートフェアなら他のブースの様子も見え、交流もできる。来場者からも比べられる。ギャラリーの中にいるだけでは、アート業界を俯瞰することはできません」(池内務氏)  今年のウルトラは別の運営者が開催していたアートフェア「プリュス」と連携。数多くの若いギャラリストがウルトラをきっかけに独立し、自分のギャラリー名義でプリュスに出展する様子も見られる。2014年まで行われた現代美術家・村上隆氏がチアマンを務める「GEISAI」のように、若手アーティストを支援するイベントも定着してきた。ギャラリスト、アーティストとも、順調に見える若手の育成だが、課題は山積しているという。 「近年の傾向としては、世界的なアーティストの作品が取引されるハイ・マーケットと、若手アーティストを中心としたロー・マーケットの二極化が進んでいて、数百~1000万円あたりの価格帯で蒐集するコレクターが少なくなっていること。若いコレクターが、取引価格も含めて次の段階に進んでくれれば市場も本当に活性化すると思うのですが」
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資産としてのアート作品を評価するのは難しい
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