「成長の終わり」はやってくるのか? アメリカで話題の「米国の成長の盛衰」を読んでみた

「経済成長」は人類にとって奇跡だった!?

 そもそも、人類には経済成長の概念すらなかったのだという。10万年に及ぶ人類の歴史のうち、およそ99800年ほどの期間は戦争や農業の誕生などを除き、「何もなかった」のだ。  では、19世紀後半から20世紀後半のおよそ100年間で、一体何が起きたというのか。それは、ライフスタイルを激変させた“大発明”(Great Inventions)の出現だ。上下水道、ガス、電気、鉄道、自動車、缶詰に冷凍食品、洗濯機、ラジオ、冷蔵庫、電話などなど……。  暮らしの都市化をうながすアイテムへの需要は、当然高まる。それに伴い労働も効率化される。時間当たりの賃金も上昇し、さらなる消費を刺激する。それこそが、「たった一度しか起きない」サイクルだったのだ。  だが、永遠に続くわけではない。ゴードンによれば、近代的な生活の基盤は1940年代の時点ですでに出来上がっていたのだという。1970年代までの30年間では、エンターテイメントなどオマケの分野での成長が見られたが、それも出尽くした。そして現在。とうとう緩やかな下り坂が見えてきた。“1970年代以降に生まれた皆さん、残念でした。” これが本書のメインテーマである。  そんなことを言うと、“IT革命はどうした?”と思うかもしれない。しかし、それも“大発明”ほどのインパクトは与えられないだろうと、ゴードンは考えている。たとえばロボット。“テクノ失業”の恐怖が叫ばれているが、MITのダニエラ・ルスによれば、いまだ洗濯物をたたむといった単純作業すらこなせないレベルなのだという。  さらに自動車のデジタル化。雑誌『Consumer Reports』に寄せられる苦情で最も多いのが、音楽再生やナビゲーション等、ハンズフリーのスマホとの連動システム関連だ。  確かにエコノミストの中には、これら新たな産業を“成長の起爆剤”と考える向きもあるが、ゴードンは「techno-optimists」(お気楽なテクノボケ)と一蹴する。もちろん、今後急速に発展すれば、限定的には富を生むかもしれない。だが、忘れてはならないのは、それとて“大発明”の枝葉に過ぎないということだろう。  問題は、新たな技術革新によって再び経済成長が到来するか否かではない。むしろ文明そのものを自然として生きざるを得なくなっている現状にあるのではないだろうか。
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「当たり前」の快適さがスポイルする人類という種
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