実は巨大出版社だった「デアゴスティーニ」の堅実すぎる事業モデルとは?

Price(価格)アンカリング効果とコンコルド効果を呼ぶ

 価格・費用面でいうと、まず思いつくのが、ディアゴスティーニの代名詞、とも言えるCMでお馴染み「創刊号特別価格」ですね。通常価格を見せた後に、半額以下で販売するこの手法ですが、マーケティング的には「アンカリング効果」と呼ばれるもので、提示された特定の数値や情報が印象に残って基準点(アンカー)となり、判断に影響を及ぼす心理を生かしてお買い得感を演出しています。  ちなみにこのやり方、誰でも使えるかというと、実際は通常価格での販売実績が無かったり、明らかに市場に流通している価格とかけ離れた価格表示を行うと、「不当景品類及び不当表示防止法(いわゆる景表法)」に引っかかるので、実績のあるデアゴスティーニだからこそ使えるやり方でもあります。  その他にもパートワークならではの価格・費用面でのマーケティング施策として「コンコルド効果」も挙げられます。超音速旅客機コンコルドの商業的失敗を由来とし、ある対象への金銭的・精神的・時間的投資をしつづけることが損失につながるとわかっているにもかかわらず、それまでの投資を惜しみ、投資をやめられない状態を指す「サンクコスト」とも呼ばれるこちらは、誰にでも思い当たる節はありますよね。  なお、デアゴスティーニの場合、この効果のみに依存するものではないですが、顧客として固定化された後は9割にも達するという高い購入継続率の、大きな要因の一つにはなっていそうです。

Promotion(広告)お馴染みの言葉の裏にあるザイアンスの法則

 デアゴスティーニのパートワーク事業における大きなKPIとして挙げられるのが、創刊号の販売部数です。これはパートワークの事業モデルを考えてみれば簡単に分かる通り、一般的な雑誌と違い、創刊された後から徐々に火が付く、というようなことはまずなく、基本的に創刊号の販売部数=収益の基盤となる母数、ということになります。  そこで採られているメインの宣伝手法が、この記事の冒頭でも触れた、お馴染みのTVCMをスポットで大量に流す、というやり方で、こちらは基本的に創刊日の2週間前から前日まで放送されているそうです。 「ザイアンスの法則(単純接触効果)」というマーケティング理論をご存知でしょうか。これは、初めのうちは興味がなかったり、苦手だったりしたものも、何度も見たり、聞いたりすると、次第によい感情が起こるようになってくる、という効果ですが、デアゴスティーニのCMが、たとえ購入したことのない人間でも「お馴染み」となっているのはまさにこれにあたると言えます。

Place(流通)書店流通でアドバンテージを確保できる理由

 上記のTVCMの最後でも触れられる通り、デアゴスティーニの購入場所と言えば、全国の書店にて、ということになるわけですが、実はこの書店流通においてもデアゴスティーニは、最近は特に有利な状況を築いています。  ずっと続いている出版業界の低迷において、大量のCMを流して山を作る創刊号だけでなく、その後も継続購入による売上、またそのための度々の来店をもたらしてくれる、デアゴスティーニは書店流通現場においてもありがたい存在であり、良い位置での平積みを確保しやすい、という状況にあります。

雑誌や物が売れない時代に、デアゴスティーニはどう進む?

 さて、ここまでデアゴスティーニの歴史からビジネススキームまで、あらためて振り返ることで「いったい誰が買っているんだろう?」という疑問を解き明かしてきましたが、あの渋いタイトルの裏には、思いつきではない合理的な戦略が見えてきました。  一方で、デアゴスティーニの基本である「雑誌を購読する」「ものを時間をかけて自分の手で作る」という趣味嗜好は、デジタルやソフト、スピードが重視される最近においては、ダウントレンドであるというのもあります。  その中において、懐かしい趣味からロボットや3Dプリンターまで対応し、中高年を中心に手堅く展開していることは素晴らしいですが、これだけの事業モデルを構築してきたデアゴスティーニであれば、スマホやデジタル時代においても、また我々の意表を突くようなユニークなやり方で、その領域を拡大していくのではないかとも期待しています。新しい時代の「週刊◯◯◯創刊~創刊号は特別価格●●●円~デアゴスティーニ♪」が楽しみです。 決算数字の留意事項 基本的に、当期純利益はその期の最終的な損益を、利益剰余金はその期までの累積黒字額or赤字額を示しています。ただし、当期純利益だけでは広告や設備等への投資状況や突発的な損益発生等の個別状況までは把握できないことがあります。また、利益剰余金に関しても、資本金に組み入れることも可能なので、それが少ないorマイナス=良くない状況、とはならないケースもありますので、企業の経営状況の判断基準の一つとしてご利用下さい。 【平野健児(ひらのけんじ)】 1980年京都生まれ、神戸大学文学部日本史科卒。新卒でWeb広告営業を経験後、Webを中心とした新規事業の立ち上げ請負業務で独立。WebサイトM&Aの『SiteStock』や無料家計簿アプリ『ReceReco』他、多数の新規事業の立ち上げ、運営に携わる。現在は株式会社Plainworksを創業、全国の企業情報(全上場企業3600社、非上場企業25000社以上の業績情報含む)を無料&会員登録不要で提供する、ビジネスマンや就活生向けのカジュアルな企業情報ダッシュボードアプリ『NOKIZAL(ノキザル)』を立ち上げ、運営中。
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